【HAPPY ANNIVERSARY後編】
【SIDE:GERALD】
その日、妻の行動は奇妙なものだった。
自分の姿を鏡に映し、上に下にと顔を動かす度に、小さな溜め息をこぼしている。
背後から近付く俺に――いつもなら、少し吃驚した顔で「ジェラルドさん!気配消しすぎです!」と言う。そんなつもりは、無きにしも…という所だけど…。
「ヨーコさん」
名を呼ばれて、初めて俺の存在に気が付く。
「ジェラルドさん…」
少し翳りのある表情、すぐに笑顔に変えても見逃さなかった。
いつからそこに居たの?と尋ねられ、声を掛けてくれれば良かったのに、と言葉をくれる。
「鏡の前で、溜め息ばかり付いていたので」
「え?そう?そんな事してない…と思うけど」
だんだん小さくなっていく言葉。笑みは消え失せる。
寂しげな表情を見せまいとするのは、あの頃と同じ。
「?!」
今、何か光った!
「ヨーコさん、それは?」
尋ねた事先が分かったらしく、ヨーコさんは慌てて両手で胸元をモノを隠す。
「こっちが、ジェラルドさんがくれたもの…と、アースレイがくれたものなの」
少し言い難そうに、話してくれる。この人は嘘も誤魔化す事も出来ない人。
言葉を選んでいるのが分かる。
「ジェラルドさんから貰ったものと同じのをアースレイからも」
「そうなんですか…」
確かに、ヨーコさんは同じペンダントを二つも身に付けている。
まさか、あいつも同じものを送るなんて…。気付かなかった。
出口の無い迷路だ。
ヨーコさんの胸には、まるで共鳴しあうかのように、どちらも引く事も無く強い光を解き放っているように見える――お互いの存在を主張し合うかのように。
「ジェラルドさん、話があるんだけど…」
「…何でしょう?」
ポーカーファイスには自信が有ったのに、貴女の前では無駄らしい。
「同じものを二人から貰って、本当に嬉しいの」
「………」
「どっちも、付けていたいの」
「しかし…」
“どっちも”とは、ヨーコさんらしい言葉だと思う。
そんな気遣いを、俺はさせてしまっているんだ。
「ジェラルドさん?」
「ヨーコさん、返して――」
“返してくれませんか?”同じものなら、あいつの方のものが良いに決まっている。
「イヤ…!」
「俺よりも優先すべきは国王陛下です。所詮、俺は――」
ヨーコさんの後ろに回り、留め具を外そうと伸ばす手をヨーコさんは素早く払い除けて来る。
「どうして?優先順位なんて無いんだから!!」
「そう言ってくれるのは、嬉しいのですが――俺は」
そう言う俺を無視して、これ以上言わせまいと柔らかい口付け。
そして、しがみ付くように力強く抱き締められる。
長い黒髪から覗く、白い首筋。
引き寄せられるように、思わずその首筋に顔を埋めてしまった。
ヨーコさんは俺を解放してくれない。
俺にはそんなヨーコさんがさっぱり分からない。
お互い抱き締める腕の力を緩めようとはしない。
このまま、一つになりたい。
「ジェラルドさん…、許して。私が誰より我侭なの」
ヨーコさんの黒い瞳に、俺が映る。
「ジェラルドさんからもアースレイからも、想われていて愛されている。その形がここにある」
ヨーコの胸元に、宝石が二つ。どちらも、強く光を放つ。
「どちらかが欠けてもダメ。二人じゃないとダメ」
真っ直ぐな気持ちが、揺るぎない想いが心に響く。
「ジェラルドさんが居ないとダメなのは、私の方」
切なげに笑む。初めて恋を知った少女のように…。
貴女が居ないとダメなのは、俺の方なのに。
全てが許されていく。このままの俺であっていいんだと思ってしまう。
「アースレイとジェラルドさんと私と…、3人で一つなんだよ」
3人で一つか…。
一人でも欠けると、この均衡が保てない。
ふわりと揺れた黒髪から、あいつの香りがした。
譲れない想いと、譲りたい想いが幾度も俺の中で交差する…。
だが今は、身も心も軽く感じる。
何を失っても、貴女が居ればそれだけでいいと心に刻み込んだ。
【後日】
「あのね、アースレイのがこっちで、ジェラルドさんのがこっちだよ」
「はぁ?見分けが付くのかよ?」
「分かるんですか?ヨーコさん」
「勿論、分かるよ!だって二人から貰った大切なものだもの」
「………」
「………」
(全く同じものなのに、普通、区別なんてつかねぇだろ!)
(こういう時、さすがと言うべきか…らしいと言うべきか…)
【HAPPY ANNIVERSARY】END




