エピローグ
ゴトトン、ガタタン。電車が揺れる音がする。
俺は、いつもと違う体操服姿で、座席に座り、流れる景色を見つめていた。
ビルが棒グラフみたいに立ち並ぶ都会が小さくなっていく。
これから十分ほど時間をかけて、電車は地元の街へと向かう。
俺の名前はピエール――じゃなかった。西荻窪マモル。魔王と呼ばれることもあるが、実は魔王ではない、ただの男だ。
この世界のほとんどを俺は愛していて、この世界の全ての人を幸せにしてやりたいとさえ思っているんだ。
さて、どうだろう。この世界は平和だろうか。
皆が幸せを感じて生きているだろうか。
――俺にはわからない。
それぞれの幸せがあるはずだと思っている。
こんな考えは甘っちょろいのかもしれないけれど、みんなの幸せを、俺は信じたい。
まずは、俺が幸せにならねばならない。
そうすることで、みんなに幸せを分け与えることができるなら。
「なぁテレサ」
ガタタン、ゴトトン、電車の中で、俺は隣に座るテレサに話しかけた。
「何さ、マモル」
「俺と結婚、してくれ」
「保留」
「えぇっ…………」
どうやら、幸せという名のターミナルにはまだ辿り着けないらしい。
電車は停車した。
慣れ親しんだ地元の駅に。
【ピエーリズム おわり】




