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蜻蛉の三題噺

禁域の森

作者: 尻切レ蜻蛉
掲載日:2011/08/05


少女は森の中に一人きりで住んでいた。

深い深い緑の中で、少女は静かに生きていた。

少女が持つのは筆。

昔、祖母と暮らしていた頃にはお習字に使った筆だった。

少女は筆を手にしたから、ここで一人で暮らしている。

どんなインクも墨も必要ない。

少女が滑らせる筆には様々な色がのった。

宙のキャンパスに描かれた”何か”は、すぐにふらふら動き出す。

一度だけ、思わず音を立てて手の中に閉じ込めた「蛍」。

そっと手を開くと、色になって両の手を染めてから無色になって空気に溶けた。

だから少女は、これが「生物」と違うことを知っている。



日課のように、縁側に面した座敷で筆を操る。

意味をなさない障子は開け放してあるから、森の中が良く見えた。

不意に、縁側の傍の茂みが揺れる。


「三日月?それとも白?」

「違うわ。あたしは茶子よ」


帰ってきたヒトの言葉に、驚いて瞬いた。

茂みから現れたのは、テディベアを抱いた女の子。


「はじめましてね。眠り姫ちゃん」

「…ネムリヒメ?」

「あら、違うの?じぃやとばぁやが言ってたわ。森の奥には触れちゃいけない眠り姫様がいるんですって」


女の子はきょとんとした少女の周りで踊る「モノ」をじっと見つめる。


「確かに、「フツウ」じゃないみたい」

「帰ったほうがいいよ」


危ないよ―少女の言葉に、女の子は小さく首を傾げた。


「どして?あなたしかいないじゃない。あなたちっとも怖くなさそうだし」

「あのね」

「なんで入っちゃだめなの?ちゃんちゃらおかしいわ」


あたし、ちっともこわくないもんー肩を竦める女の子に、少女は小さく首を振る。


「だめだよ」

「いいの。あたしが良いって言ってるんだもん」

「……本当に?」

「うん」

「此処にいてくれるの?」

「だからさっきから、そう言って……え?」


女の子の手から、テディベアが落ちた。


「ありがとう」

―久しぶりの馳走だ―


少女の後ろ、家の奥から伸びてきた大きな手が、茶子を暗闇へと引きずり込む。



―嗚呼、人は美味い。お前の描く「モノ」にもいい加減飽きていたところだ―

「しばらく、友達は食べないでくれる?」

―そうだねぇ。この間喰らってしまった友人のクマの代わりに、その人形はお前にやろうか―


少女がテディベアを拾い上げると、闇の中で声が嗤った。

【三題噺】テディベア、眠り姫、習字

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