<ミラージュ>第2部
何とか家には帰り着いたようだ。でも学校には行かず、昨日通った河原の道のそばに腰掛けていた。冬でもないのに風は冷たく感じられた。芝生に寝転がり、あのコに教わった歌を口ずさみそれから起き上がった。
「もう君はいない」
そう思うと全身の力が抜けた。
イギリス風の街灯が立ち並ぶ商店街へ出た。陽ももう沈みかけ、夕暮れが金色に輝いている。ふと、電柱に貼られた写真と文字が目に入った。
《この犬さがしています!!》
幼い子犬が儚げな目つきで僕を睨む。それがなぜか無性に君と重なるような気がした。古ぼけた貼り紙を見れば、もうそれが相当昔の物だと気づくだろう。
そこで僕はそれを勢いよく引きちぎり、内ポケットにおさめた。
薄く三日月が姿を現した。だが街の灯りで霞みがちだ。もう、夏も終わる頃。
爛々たる街の片隅にいた僕に近づいてきたのは、一匹の猫だった。僕は数分だけその猫と戯れて、お別れをした。猫は諦めずについてくる。その姿はまさに僕を見ているようだった。
河原の道にあるバス停からバスに乗った。ガタゴト道を構わず走り抜けていく。途中、何人かがバスに乗った。僕は急に降りたくなって、降りるハズだった場所のかなり前で降りた。
まっすぐ歩き、神社に着いた。鳥居に腰をもたれ、目を瞑った。
遠くから君の声がする。僕を呼んでいる。そして使命を思い出した。
「手紙を書こう」
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