<お別れ>第1部
次の日、昨日のことをなぜ流したのかと聞かれると思ったがそれはなかった。いつもより会話の少ない授業となったが。
人気者のアイツはみんなの中心にいる。僕がいつものように窓際に身を寄せていると、抜け出したアイツが向かってきた。
「よう! 空飛び人!」
「何だよ それ?」
アイツは僕の顔をじっと覗きこんだ。
「この前はちゃんと聞いてたのか?お前ときたら、表情がない」
「ひょ、表情?」
「そうだよ。サッカーだって失点すればヤな顔になるし逆に点とれば良い顔になる。それと同じだろ?表情を出せよ」
「まあね」
意外と面白いことを言うやつだな。
「ま、でもな」
アイツはここで間をあけた。
「オレはな、お前の夢みたいな夢に心動かされちまってんだよ。オレの夢よりもずっとバカげてる。ーそんなヤツがいてくれてーーー」
「おい?何話してんだよ?」
クラスのヤツらが集まってきた。
「相手にすんなよそんなやつ。お前も変わり者になるぞ?」
アイツは片方だけ口元を吊り上げて
「ぜひそうなりたいね」
と言った。
と同時にチャイムが鳴り、僕たちは席に戻った。
続きを聞きたかった。春の匂いを帯びた風たちが教室に舞い込む。その風に流されるかのように、心残りがした。なぜか、もう二度と聞けないような気がしてならなかった。他人が見ればきっと「クサいセリフ」も今は欲しかった。
そんなことを考えすぎてまた席を立たされたのは、もうどうでも良いよ。




