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<音楽室にて>第2部


ガララ。

教室のドアを開け僕はまっすぐ、駆け足に3階へ向かった。美術室前まできたところで、僕の足取りは急激に遅くなった。壁にかかった絵画たちが嘲笑するように僕を見ている気がした。でも相変わらずゆっくりと歩いた。何か見落としていないかと考えながら。

そして角を曲がったところで、良い匂いが『聴こえてきた』

それは、音楽室から流れてきたピアノの音だった。

ガララ。

彼女としばらく目を合わせた後で僕が口を開いた。演奏は気づかないうちに終わっていた。

「良い匂いに誘われてきたよ」

彼女はあの笑顔をしてみせた。そして

「よくわかったね」とだけ言った。

『よくわかったね』?そりゃ誰だって気がつくよ。それにしても僕が来るまで演奏を続け、ただ待っていたのだろうか? こんなことを考えていたがそれもどうでもよくなった。

「…聴かせてくれる? 君の歌声」

「ちょっと恥ずかしいの…でも最後まで聴いてよね」

それからの彼女は別人のようだった。透き通る歌声はどこか遠い国へのいざないにさえ聴こえたし、照れ気味仕草はとても可愛らしかった。

演奏が終わり、僕は拍手をし続けた。多分こういう感動・刺激、それに幸せに敏感じゃなかったせいだろう。


「普通さ、最近の女子っていったらこういうことできないと思うよ」

僕は言った。そして

「キモいとか異常とか言ってさ」

と、続けた。

「でも私は恥ずかしいと思ってない。そういう女にはなりたくないの」

「それで良いと思う。その、何ていうか、ちょっと変わってた方が面白い…じゃないけどさ」

「ううん。きっとそう。そういうのが好きだったりするの。でもね、そのために歌ってるんじゃないんだよ?」

このコは気丈な人だ。僕はそう思った。オマケに僕と似てる。

それがなぜか無性に嬉しかったんだ。

それから先も、部活が始まる1週間前までは毎日会っていた。僕はいつのまにか彼女が歌う歌も覚えてしまったので、学校という退屈な中にも楽しみができた。

だが、いつものように帰りの会が終わって揚々と音楽室へ向かった僕に、悲劇が訪れた。 「私ね、本当のこというと」

彼女は一度僕を見て様子をうかがってから

「転校するの」と言った。

まず最初に僕を襲ったのは激しい衝撃で、聞き直したいと思った。

待てよ?これはお決まりのパターンじゃないか?なんてありふれたつまらない筋書きだろう、とも思った。

「あのね、数ヶ月後…だからまだ先のことだけど」

僕は開いている窓際に立って

「ねえ?空飛びたいと思わない?」と言った。

彼女は驚いた様子だったがやがて

「うん、すごく」と言った。

「僕、実は火曜日が一番嫌いな日なんだよね。だからさ、毎週火曜日会ってくれないかな?」

「でも、その、部活が始まっちゃうよ」

「じゃあ、良いとこ知ってるからそこにしよう!」

「…どこ?」

「3階のもっと上にあって、古ぼけたピアノだけが置いてあるんだ。多分、倉庫かなんか」

「どうして知っているの?」

僕は肩をすくめた。

「そういうことばっかりやってるからさ」

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