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わたくしは助けて差し上げましただけですわ

作者: 葵
掲載日:2026/10/12

テンプレ的なものをコメディっぽく書いてみたくなりました。


「お待ちください。わたくしが何をしたですって?」


王立学園の昼休み。

昼食を食べ終えた生徒達が、思い思いに学園の庭園を散歩している。

公爵令嬢シャルロッテが友人達と談笑しているところに婚約者のルーエン第二王子から声をかけられたのはそんな時だった。

怒りを孕んだ声に振り向くと、側近候補の子息達と最近とみにルーエン王子に接近している男爵令嬢がそこに居た。


「聞こえなかったのか、シャルロッテ。貴様がここにいるカリナに数々の嫌がらせを行ってきたという報告を受けている」

「まあ、嫌がらせですか」


どういう事かしら、とシャルロッテが首を傾げる。


「そうだとしたら、ご災難でございましたわね」

「何をしらばっくれている!」


大きな声を出すものだから、周囲の生徒達の視線が集まってきている。


「しらばっくれるも何も、わたくしには何のことだかさっぱりわかりませんもの」


よく物語で見る、卒業パーティでの婚約破棄の宣言のシーンのようですわ、とシャルロッテは心の中で思う。

何の行事でもない日々の学園生活での昼休み。

まあ、ギャラリーはそれなりに居るのだけども。


「俺がカリナを大切にしてるからって、カリナに嫉妬して嫌がらせを行っただろう」

「まあ、存じ上げませんが、どのような嫌がらせを?」

「カリナの教科書を破って捨てたりとか。カリナを突き飛ばして転ばせたりとか。俺に近付くなと威嚇もしたそうではないか!」

「ルーエン様っ、私怖かったですぅ!」


茶髪に明るい茶目の小動物のような少女が、ルーエン王子にしがみついた。


「はあ、そうなのですか。それは災難でございましたわねえ」


まるで他人事のように言うシャルロッテに、ルーエン王子は更にイラついた様だ。


「何故そのように自らの非を認めようとしないのだ!そんな冷血な女とは婚約を破―――」

「恐れながら殿下。先にこれだけ申し上げてよろしいですか」


友人達の輪の中に居たシャルロッテが、ルーエン王子に向かって3歩進み出た。


「この国では、下位の者が上位の者に虚偽を申せば相手に対する翻意ありとして地位を失うことになる法がございます」


そう言うと、カリナはびくっと肩を揺らした。


「ですからわたくしは、殿下に対しても虚偽は申し上げませんわ」


だからこの国の貴族達は、言葉の重みを知っている。



「で、では、カリナが嘘を吐いているとでも言うのかっ…」

「さあ、わたくしは存じ上げませんわ。でも、そうですねえ」


シャルロッテはつかつかとカリナに歩み寄り、手に持っていた鞄をひったくって中を開けた。


「教科書を、ねえ」


その中から一冊の革表紙のノートを取り出した。

あ、とカリナが言うのと同時にシャルロッテがそれを破り始めた。


「貴様、シャルロッテ、何をする!?」

「何って殿下、破っているのですわ」


流石に革表紙は手では破れないが、中の紙の部分だけは破ることができた。


「そこの令嬢は教科書を破られたと仰っていましたので。ですが教科書は国所有の財産で、個人所有のものにはなりません。使用後には学園に返却するのが当然のものです。それを個人所有のものと言う方がそもそもおかしいのです。ですからわたくしは破ることなど決していたしませんわ。寧ろ教科書を破る者が居ましたらその者を罰しますわ」

「な、な、でも、今破ったではないか!」

「ええ。彼女が破られたと申しておりましたので、代わりのノートでわたくしがその通りにいたしたまでですわ」


破った紙がぱらぱらと地面に落ちるのを、カリナは青い顔をして見つめていた。


「わたくしが破らなかったら、そこの令嬢は虚偽を殿下に伝えたことになります。ですから彼女が罰せられることがないように、わたくしが助けて差し上げましただけですわ」

「は?」

「へ?」

「え?」


王子とカリナ、側近候補達が同時に間抜けな声を上げた。


「ええと、それから突き飛ばした、でしたわね」


そう言うと、シャルロッテはカリナに近付き、腕をグイっと引っ張ると、カリナは前のめりによろけた。

後ろに付き飛ばせば、控えていた側近候補達に受け止められる。

そうすることがないように前に転ばせたのだ。


「きゃっ、わっ!?」


そのままカリナは散らばった紙の上にべしゃっとうつ伏せに倒れ込んだ。


「カリナ!?シャルロッテ、貴様!」

「あら、これもわたくしに身に覚えがないので今そうして差し上げましただけですわ。それとも殿下は」


ずいっと一歩、ルーエン王子に近寄った。


「この嘘吐き令嬢が家ごと没落なさるのをお望みなのでしょうか?助けて差し上げたのですからそこの女生徒からは感謝していただきたいものですわ」


カリナを助け起こそうとしてた側近候補達の動きがぴたりと止まった。


「さて、最後は威嚇をした、ということでしたわね」


地面に這いつくばる形になったカリナの頭の先に、ダン!とシャルロッテの足が踏み鳴らされる。

それに驚き、びくりとしながらカリナが顔を上げた。


「貴女の名前も存じませんが何処の家の方?偽りの言葉を王族に告げて公爵家に喧嘩を売るとは相当な覚悟の持ち主ね。家の当主様はこれをご存じなのかしら」


カリナは青ざめて口をパクパクするだけだった。


「待て、カリナ。あれらは全て、本当にシャルロッテの言うように虚偽だったのか!?」

「そ、そんなはず…だって悪役令嬢が正しいことをして勝つなんて…」


カリナはぶつぶつと意味不明なことを言い出した。


「では皆様。わたくしがこの女生徒に嫌がらせをしたのを見たという方はいらっしゃいますの?」


そこにいる生徒達に、シャルロッテが問いかける。


「いや、そんなの」

「見たこともないなあ」

「大体、シャルロッテ様は学園内で殿下に近寄られることもなかったようだし」

「あの女生徒が殿下の傍にいたのは嫌というほど見かけたけどな」


下位の者が上位の者に虚偽を言えば、重罪になる。

皆改めてそのことを思い出して、『本当の事』しか口にしなかった。

この学園内で、王族のルーエンに次いで高位なのは公爵令嬢のシャルロッテだからだ。


「ええ、私達はシャルロッテ様の近くにいつもおりますから、そのような者をシャルロッテ様に近付けるわけがございませんわ」


シャルロッテの友人達も揃って声を上げた。


「それで殿下。先程、婚約がどうとか仰っておられましたわね?」

「う、そ、それは、その」

「後程、父と国王陛下に相談しに王城に上りますわ」


言い淀んだルーエン王子に向けるように、生徒達から拍手が沸き起こった。


「素晴らしい!流石シャルロッテ様はお妃様の器たり得るお方だ!」

「公正なシャルロッテ様こそ我ら王国の誇り!」

「シャルロッテ様、万歳!」


わああ!

パチパチパチパチ。


午後の授業に向けて、その拍手の中をシャルロッテと友人達は教室に歩いて行った。

ぽつんとその場に取り残されたルーエン王子達に、午後の庭の手入れをするために庭師が近寄ってきて「庭にごみを散らかすなど家庭での躾はどうなっているのやら」と文句を言うのを聞き、側近候補達が慌てて散らばったノートの紙ごみを集め始めた。


「こんなはずじゃ…あああ攻略法をまとめたノートがあぁぁ…」


やはりカリナは意味不明なことを口走っていた。




その後、シャルロッテとルーエン王子の婚約は見直されることとなり、改めて第三王子との婚約に切り替えられた。

ルーエン王子は虚偽を疑うこともなかった迂闊さを王から咎められ、国境の砦で騎士団に配置され鍛え直しを命じられた。

シャルロッテの機転により結果的にギリギリ虚偽とはならなかったカリナだが、実家の男爵家はカリナの行動を重く受け止め、僻地の修道院でこれまた同じく鍛え直しをさせられる羽目になった。


「ま、頑張り次第ではまた王都に返り咲くこともできるかもしれなくてよ。この次には助けて差し上げられる保証なんて持てませんけれどね」


人の性根がそうそう変わるものであるのならね、とシャルロッテは隣の第三王子に微笑んだ。


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― 新着の感想 ―
王族に嘘をついた罪はそんなことではごまかせないし、公爵令嬢を陥れた罪だってあるし。普通に処刑では?処刑されなくても公爵家に家ごと追い詰められて爵位返上の上一家離散、または全員ばらばらに売り飛ばすとか。…
後から行動しても、言った時点では嘘だから、厳密には『虚偽』だということは変わらないですけど... ※これが成立するなら、騙した後に本当のことを言って騙していないと言い張ることができてしまう。
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