表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/16

不思議な声

私は今、馬車に乗っている。


公爵家の紋章のついた、豪華な馬車だ。


非常に快適で、長距離の移動に適している。


窓の外にはのんびりとした田園風景が広がっており、遠くには雄大な山々が連なっている。


王都から北西にある、ティアリーゼ公爵家の領地だ。


「…なんでこんなことに」


行儀悪く窓に肘をついてボヤくと、前に座っていた侍女のサーシャが呆れた顔をした。


「それはお嬢様が、ビクトル殿下をボコボコにしたからです」


「…覚えてないもの」


「もう、お嬢様!王家からのお咎めが無かっただけ、良かったでは無いですか!普通なら牢獄行きですよ」


王家の血を引く名門貴族にして筆頭公爵家の令嬢を、牢獄にぶち込むわけにはいかなかったのか。


それとも浮気された私に同情してくれたのだろうか。


なんにせよ私はあの後無事に婚約破棄され、頭を冷やせと言われて領地行きの馬車に放り込まれた。


「…あの女、一体何者なの?」


思い出しただけでもムカムカしてくる。


ビクトルのことを考えると、怒りは更に倍だ。


「マドリーヌ・ポルテは男爵家の庶子で、不思議な力があると最近では聖女と呼ばれているそうですよ」


「聖女ぉ!?あの女が!?」


「お嬢様!」


侍女に窘められ、肩をすくめる。


「聖女、ねぇ…」


そういえば肩に触れられて目が合った瞬間、不思議な感覚があった。


体の奥底から、何かが湧き上がってくるような。


「ともかく、王都はお嬢様の話題で持ち切りです。領地で少し時間を置くのは良いことだと思います」


「そうねぇ…」


分からないことを考えるのはやめよう。


だんだんと近づいてくる領都を見つめながら、私はあの二人のことを頭から追い出した。


ティアリーゼ公爵領は王都から半日の距離にある。


小麦栽培と酪農が盛んで、特に小麦は品質が高いと評判だ。


その他にも、バターやチーズを多く生産している。


割と平坦な土地であり気候も穏やかで治安も良い。


国中でも人気が高く、移住希望者は後を絶たない。


領邸に到着した私を、先代公爵と夫人、つまり祖父母が出迎えてくれた。


「よく来たな」


「大変だったわねぇローズ。ゆっくり休んでいきなさい」


「ありがとうございます!おじい様、おばあ様」


通された私の部屋は、きちんと手入れが行き届いていた。


幼い頃気に入っていたぬいぐるみが、飾り棚にそっと並んでいる。


「疲れたから、ちょっと一休みするわ。夕食の頃に起こしてくれる?」


「かしこまりました、お嬢様。ゆっくりお休み下さい」


サーシャが微笑んで、そっと退出していく。


私はベッドに倒れ込み、そのまま眠りに落ちた。


夕食には、私の大好きなものばかりが並んだ。


久々に会う祖父母とたくさんのことを話し、私の中のビクトルとマドリーヌへの怒りはだんだんと小さくなって行った。


過ぎたことはもう仕方がない。


忘れよう。


湯浴みを終え、静かな廊下を歩きながら、窓の外に目をやる。


常にギラギラとした王都では、こんなにも綺麗に星は出ない。


「こんど、星を見に行きましょうか」


「まあ!それは良いですね」


サーシャとそんな会話をしていると、不意に何かが聞こえた気がした。


「…?ねえサーシャ、今なにか聞こえなかった?」


「いえ?なにも」


サーシャが首を傾げる。


分かれた廊下の先にあるのは、図書室だ。


「…変ねぇ。誰かに呼ばれた気がしたんだけど」


「怖いことを仰らないでくださいお嬢様!早くお部屋に参りましょう!」


サーシャの顔が青ざめる。


私は笑いながらサーシャと手を繋いだ。


「わかったわ。ほら、行きましょう」


涙目のサーシャと共に部屋に戻り、私はゆっくりとベッドに入る。


「では、お休みなさいませお嬢様」


「うん、おやすみ」


夕食前に寝たのにも関わらず、すぐに睡魔が襲ってきた。


『…来い…来い…俺の元に…俺はここだ………にゃ』


眠りに落ちる直前、不思議な声が頭に響く。


(にゃ…?…だれなの…?わたしを…よんでいるの…?)


応えようとするが声も出ず、体も動かない。


こうして私は、呆気なく睡魔に敗北した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ