犬
「ねえ、ところで…」
公爵邸の中庭で優雅なティータイムを過ごしていた私は、ふとした疑問を口にした。
「東洋の言葉で、人を呪わば穴二つっていうのがあるんだけれど…あの二人に呪いをかけたことで、私にもなにか副作用のような…なにかがあるのかしら」
幸せそうにマフィンにかぶりついていたリュシールが顔を上げる。
「まぁ、全くないとは言えないにゃ」
「え!?ちょっと、一体何なの!?」
思わずリュシールの首根っこを引っ掴んだ。
ぐえっとリュシールが呻き声を上げる。
「ほ、ほんの、ほんのちょっと…」
「ほんのちょっと、何よ!?」
「犬に嫌われるようになるににゃん」
がっくり、である。
「なに、それ…」
「俺は猫の悪魔だにゃん。猫と犬は、昔から相性が悪いからにゃあ。契約者にもちょっと影響が出ると思うにゃ」
「呪いの反動とかは無いって事?」
「直接命に関わる呪いならいざ知れず、あの二人にかけたイタズラ程度の軽い呪いなら問題ないにゃ」
「…ならいいんだけど」
犬に嫌われる。
…ちょっと悲しい。
落ち込む私に、リュシールが慌てて言った。
「猫が平気な犬になら問題ないにゃ!」
たまに遊んでいる、うちの使用人が飼っているあの犬は、どうだっただろうか。
彼の実家では、猫も一緒に飼っていたと聞いた気がするけれど。
今度確認してみよう。
そう決意して、私はまたお茶を飲んだ。
ビクトルとマドリーヌの体に、とんでもない異変が起きているなんて露知らず。
そんな私を見て、リュシールはマフィンを平らげて満足気に香箱を組んだ。
ヒクヒクと桜色の鼻を動かしながら、穏やかな日差しにとろりと目を細める。
「いい天気だにゃあ」
「ええ、本当に」




