研究報告書2 報告者:研究者A
追補観察記録
対象識別コード:GT-37
観察者:研究者A
所見補足
観察期間の延長に伴い、研究者Aの注意配分に変化が見られる。
当初は測定項目(呼吸・姿勢・反応安定度)への均等な配分がなされていたが、現在はGT-37固有の反応差に焦点が寄りやすい。比較対象を必要としない観察に移行している。
研究者内心メモ(非公開)
これは感情ではない。興味の延長だ。
同世代という共通属性がある以上、反応の差異は偶然ではなく、選択の結果だと考えられる。
――そう理解している。
観察時点T4
新規刺激がなくとも、研究者AはGT-37の微細な変化を拾おうとする傾向が強まる。
記録頻度が増え、語彙が個別化している(例:「安定」から「GT-37らしい安定」へ)。
研究者内心メモ
もし条件を一つだけ変えたら、どの程度差分が出るのだろう。
この仮説は研究として妥当だ。
――個人的な関心ではない。
判断の揺らぎ
研究者Aは、介入の可否を検討する際、倫理的制約の再確認に時間を要するようになった。
これは慎重さの増加とも取れるが、同時に「関与を避ける理由を言語化する必要」が生じている兆候でもある。
研究者内心メモ
同世代であることは、理解を早める。
理解が早いと、効率が上がる。
効率が上がると、もっと知りたくなる。
――連鎖としては自然だ。
視線の変化
観察時、研究者Aの視線は測定点ではなく**反応の出現“前”**に向く。
起きた事象より、起きる可能性を見ている。
これは予測行動であり、対象への関心が高まった際に見られる。
研究者内心メモ(否認)
私は研究者だ。
対象はGT-37。
関係はここまで。
それ以上を考える必要はない。
暫定結論
研究者Aに芽生えているのは、本人が定義する「恋心」ではない。
しかし、
•比較対象を失う
•個体名(番号)に意味が付与される
•介入仮説が増殖する
これらはすべて、対象が単なるデータではなくなり始めた兆候である。
備考
同世代という属性は、距離を縮めも広げもする。
研究者Aはそれを理解している。
理解しているがゆえに、踏み出さない。
踏み出さない理由を、今日も研究と呼んでいる。
公式記録(提出用)
対象識別コード:GT-37
観察者:研究者A
環境条件
•対象は視覚遮断により視覚情報を取得不可。
•観察者は一貫してマスク・ニトリル手袋・白衣・ズボンを着用。
•観察者の顔面・体表情報が対象へ漏洩する経路は確認されていない。
経過要約
反応は安定域を維持。刺激量の変化がなくとも、生理指標は条件に順応した状態を保つ。対象は観察される構造そのものに適応しており、個別介入の必要性は低い。
評価
観察は継続可能。研究条件の一貫性が反応の再現性を担保している。
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私的観察(未提出/個人ログ)
……正直に書く。
見えていない、知られていない、その前提がここまで効くとは思ってなかった。
私は顔を隠して、手袋して、白衣を着ている。同世代の誰かとしてじゃなく、役割として存在できる。
それを、少しだけ――いや、かなり気に入っている。
GT-37は相変わらずだ。反応は分かりやすいのに、理由は単純じゃない。
共感できるところもある。管理されると楽になる、判断を委ねると静かになる、その感じ。
でも、全部は分からない。私はそこまで手放したいとは思わない。
それでも、分からないまま近づくのは、嫌いじゃない。
今日は、公式には「安定」と書いた。
私的には、もう少し違う言葉が浮かんでいる。
「慣れてきた」でも「鈍った」でもない。
こちらを前提に身体が並び替えられている感じ。言い過ぎかな。
顔を見せていない。
声も、必要最低限にしている。
バレない。だから安全。だから……少し楽しい。
恋心?
違うと思う。少なくとも、私はそういう言葉を使うタイプじゃない。
ただ、もし条件を一つだけ変えたらどうなるか、
その「もし」を考える時間が増えたのは事実。
同世代だからだと思う。
距離感の計算が、無意識に合ってしまう。
近づきすぎない理由も、遠ざけすぎない理由も、同時に分かる。
研究は続ける。
これは仕事。
……それで十分、ということにしておく。




