エピローグ 上官…
――上官視点
研究者Bは、モニターから目を離さずに言った。
「……彼女に、ずっと任せていた理由は?」
上官は一拍置き、静かに答える。
「彼女にはな、現実を直視しすぎる傾向がある」
研究者Bは眉をひそめる。
それが評価なのか、警告なのか、判断がつかない。
「このまま静観するのが、彼女のためでもあるし……我々のためでもある」
言葉は淡々としていた。
感情はない。
少なくとも、そう見えた。
研究者Bは躊躇しながらも、続ける。
「……言っていいのか分かりませんが」
上官は止めなかった。
モニターには、研究者AとCT-37が映っている。
規定通りの距離、規定通りの手順。
だが、どこか違う。
資料に目を落とし、再びモニターを見る。
「……似てますね。あの犬に」
上官は小さく息を吐いた。
「ああ。彼女自身は“知的な男性”として見ているがな」
研究者Bは、思わず言葉を漏らす。
「……幻覚、でしょうか」
上官は首を横に振る。
「幻覚じゃない。
彼女は——見たいものを、見たいように見ているだけだ」
沈黙。
「だがな、それで彼女は研究を完遂している。
報告書に欠落はない。
判断ミスもない。
規定違反もない」
上官は続けた。
「だから問題にならない。
そして——だからこそ、危うい」
研究者Bは息を飲む。
「彼女は、正しく……静かに壊れている」
机の上の資料。
数年前、両親を亡くした記録。
数ヶ月前、唯一の家族だった愛犬の死亡報告。
それらが、淡々と並んでいる。
上官は言った。
「CT-37は、我々にとっては
“高度な知能を持つ犬”だ」
研究者Bは視線を戻す。
モニターの中で、Aは
人間と話すときと同じ声色で問答を行っている。
「遠吠えもしない。
無駄に吠えない。
従順で、賢い」
上官の声は、どこか乾いていた。
「……だから、だろうな」
研究者Bは理解した。
Aは、
“失ったもの”と同じ構造を、
別の形で見つけてしまったのだ。
「心に入っていったのは、
彼が特別だったからじゃない」
上官はそう締めくくった。
「静かだったからだ」
モニターの映像が切り替わる。
それが、
研究者Aが辞職する数週間前の、
最後の正式記録だった。
これにて「静観記録」は最後になります。
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