血塗られた交易の裏4 電光石火
葉月たちは慎重になりながらも、進む速度は自然と上がった。悪魔を「破壊できる」という事実は、彼らの精神を随分と楽にさせたのだ。
しばらくは悪魔と出会うことはなかった。その気配も、感じることはなかった。
川幅は大きくなり、急だった流れも幾分落ち着き、優雅な流れは旅の過酷さを癒すようだった。山頂付近の高原にはないこうした眺めは、三人の密かな楽しみになっていた。
犬はテリトリー内に侵入した「異物」を感じ取り、遠吠えを連破してすぐさま主人の元へと知らせた。主人は何か警戒すべき事態が起きていると悟り、武器を持ち、仲間を集めた。
三人が歩を進める時、斥候としてアトラかリアムが先導する。旅の中で自然とできた役割だった。葉月は二人に比べて身体能力に劣る。彼は後衛の司令塔として、進捗の管理人として、その役割を全うしていた。
僅かな四足獣が疾走する音。アトラの耳はそれを確実に捉えた。身構え、棍棒に力が籠もる。藪から飛び出した影を、棍棒が叩き落とした。
アトラの異変に、リアムは即座に反応した。明らかな敵襲。緊張が走る。悪魔の気配はなかった。――風切り音。リアムが体をかわすと、矢が彼の鼻先を通過した。
葉月は見た。遠方から矢を放った悪魔、そして武装した悪魔の集団を。アトラに向かったのは犬に似た四足獣。犬にしては小さいが、姿は犬だ。リアムは矢を回避した。
悪魔の集団が近づくにつれて、あの濃厚な嫌悪感が再び湧いてきた。戦闘は、突如始まった。
振り下ろした棍棒で一匹の犬を打ち付けると、その隙を狙ってもう一匹が飛び出してきた。アトラは棍棒から咄嗟に手を離し、片手で犬の頭を掴む――そのまま握りつぶした。足元に忍び寄った犬は、足の裏で踏み潰した。
リアムも悪魔の濃厚な気配を感じ取っていた。最初の矢で神経は極限まで研ぎ澄まされ、迫り来る敵を見据える。なんと、悪魔は武装をしていた。槍、剣、斧を持つ悪魔が迫り、遥か後方に弓を構える悪魔。
間合い。槍の鋭い突きをリアムはピッチフォークで弾く。その勢いのまま、体勢の崩れた悪魔に突きを返すと、頭部が弾け飛んだ。振り下ろされた剣を掬い上げると、悪魔の腕は肘から先が飛んでいく。唖然とする斧持ちの悪魔にリアムが「吠える」と、その動きは止まった。視界の端。先ほどの矢を放った悪魔が燃え盛る。リアムは残った悪魔の頭を踏み潰し、肘のない悪魔の頭を握りつぶした。
葉月は、弓を構える悪魔目掛けて雷の魔法を放った。それは、ちょうどリアムに二発目の矢を打つタイミングだった。
戦いの決着はほぼ瞬時に着いた。あっという間だった。異臭が立ち込めているのを自覚した時、アトラは我に返ってそのままへたり込む。遠くに閃光が走り、リアムの周りには悪魔が倒れていた。
リアムは痺れるような興奮の中にいた。飲み込まれるような恐怖を与えた悪魔を、この手で討ち取ったのだ。槍の穂先も剣の太刀筋も全てがよく見えた。異臭の中、確かな手応えを感じていた。
葉月は二人に駆け寄り、無事を確認して安堵のため息をついた。不意に始まった戦闘はまさに奇襲であったが、瞬時に蹴散らした二人の強さは、もはや比較対象がないかのように思えた。




