血塗られた交易の裏2 コーリング
悪魔は手慣れた様子で鹿を狩ると、立ち去っていった。それは長い時間のようでもあり、一瞬のようでもあった。
理屈ではなく、純粋な本能で、彼らが相容れぬ存在であると、頭の中のアラートがいつまでも鳴り響いていた。
緊張の鼓動がおさまり、三人は安堵の息を吐いた。自分と仲間の無事を喜ぶ彼らの間には、確かな絆が育っていた。思えば、彼らが初めて出会ったのは成人の日。数少ない同世代だった。
悪魔も鹿を狩る。それは当たり前だが、悪魔も食料を必要とする存在なのだろう。今回の遭遇は何事もなく終わったに過ぎない。今後、鹿の存在は避けるべきだと葉月は考えた。
川から距離を取りながら進むルートに変更したのは、リアムの提案であった。鹿が水場を好むのなら、そこに悪魔も目を付ける可能性が高い。川を見下ろしながら、その進みに合わせて進む。旅は少しだけ困難さを増した。
一方、集落では。
導き手たる神父が会っていたのは、成人の儀式に参加した三人の若者たちの父親だった。
リアムの父は、自分の土地を二人の兄に将来譲れば、リアムには土地がなく食べていくことはできないと知っていた。父はリアムに幼い頃から竜の対処を教えていた。畑の守護者として兄達と協力していけるようにと。
集まった三人の父親たちは、導き手の言葉に目を丸くしていた。彼らは、三人の息子が「民族の危機的な未来のための捧げ物」として選ばれたと考えていた。だが、神父が告げたことは全く違った。
「彼らは神に選ばれた、神になる子たちなのだ」
賢い葉月が「口減らし」と考えたように、父親たちもまた、息子たちが民族の「犠牲者」であると考えていた。口減らしにしては数が少ないが、民族のガス抜きとしての捧げ物であると。
神父は静かに語る。近頃、彼が一心不乱に祈りを捧げていた理由がそこにあった。
「神の復活は近い。神の眷属の神々も、まもなく降臨する」




