血塗られた交易の裏1 異形と殲滅の衝動
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真の異変には必ず前触れがあった。静かなる前触れ。しかし、異変というものは起きてから気づくものなのだ。
〜辺境の学術書より〜
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100年ほど前この世界に悪魔はごく僅かな地域に点々と暮らすだけの少数勢力であった。むしろ弱き一族として相手にもされていなかったほどである。
異変が起きたのは悪魔を討伐すべく当時の有力者が悪魔の国へ侵攻した時のこと。
悪魔の中に絶対的な侵略者が生まれ、その有力者を滅ぼしてしまったのだ。
そこからだ、悪魔が世界へと蔓延し始めたのは。
今では地上のほとんどが悪魔の領域になってしまった。
領土を拡大する度に悪魔は結界を張り、元いた民族を排除したのである。
ここからは基本的に川に沿って行く旅だ。清浄な水がいつでも手に入ることは、想像以上に大きかった。水は命と、束の間の清潔をもたらしてくれる。
川はまだ小さく、せせらぎと呼ぶにふさわしい静かな音で流れていた。過酷ではあれど穏やかな旅は順調で、三人は山間部の危険な道のりに比べ、少し拍子抜けしていた。
アトラが言うには、鹿の足跡を辿ると岩塩に辿り着くという。近くに岩塩地帯を発見できれば、塩の運搬ルート上の貴重な中継地点となる。
水場の近くは何かと便利だ。岩塩地帯を見つけたら、簡単な中継基地を作ることを葉月は考えていた。
僅かではあるが、岩塩地帯はあった。しかし、それは鹿ならば行ける切り立つ崖の中腹。採取するには足場が必要だが、今は三人しかいない。良い発見と残念な状況に葉月は落胆したが、後の中継地点とするには良い場所だと思慮を深めていると、アトラは既に丸太で崖に道を作り始めていた。
棍棒で杭を打ち込み、丸太を乗せて、空中歩廊を岩塩地帯に伸ばしていく。危険極まりないが、アトラの確かな力があれば、行けないことはなさそうだった。
思わぬアトラの「原始的な知恵」と「力」に、自然と二人に笑みが溢れた。
その刹那。異質な緊張が三人を貫いた。心臓を鷲掴みにされたような、絶体絶命の冷や汗が全身から噴き出す。
何かわからない。しかし、何かがおかしい。身の毛のよだつような感覚を葉月は感じ、本能的に三人は物陰に身を隠した。それ以外の行動は、死を意味した。
聞き慣れぬ「甲高く不快な言葉」が耳に届く。この日、三人は生まれて初めて
「悪魔」を見た。
悪魔の姿は、どの話に聞くよりも奇妙だった。我々とは似ても似つかぬ異形。絹のような衣服を纏い、自然界にあってはならぬ存在とは、まさにこのことか。
三人は恐怖と緊張で、精神がオーバーフロー寸前だった。だが、別の感情も確かに湧き上がってきた。それは、根源的な「殲滅させたい」という欲望であった。




