深夜コウソク1 深夜航足
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真の脅威と遭遇したらどうするか?そんなのは決まっている。逃げる、それ以外は考えなくて良い。
〜街の旅人の戒めより〜
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三人は滝の上から下界を見下ろしていた。相変わらず空はどこまでも果てしなく広がり、その曖昧な境界線の青こそが海だった。風に吹かれながら、彼らは塔と要塞の威容を見つめる。
葉月は言った。「海までの安全なルートを探る」。整備された道を進みながらも、三人はこの冒険が最後になると、そう思っていた。力をつけて強くなればなるほど、次は命がないのではないかという予感が増していくのだ。
前回は勢いだけで進んだ。もっと早く引き返すタイミングがあったのに、ヤケクソで前に進んだ。それは無知だったからだ。今は違う。――それでも、目的があるなら挑むしかないのだ。アトラは棍棒を、リアムはピッチフォークを強く握りしめた。
覚悟していたとはいえ、想像以上に結界は体から力を奪っていった。結界の脅威は相変わらずだ、歩く速度は遅くなる。わかっていても、だからといって楽になるわけではない。前回よりも結界の猛威は増した。それは、彼らがより深く先へと進んだ「確かな証拠」でもあった。
川は大きく水量も増し、大河となっていた。葉月は次の作戦として船での移動を準備していた。体力の温存と隠密性を高めるため、昼間は物陰に隠れ、夜間に船で川を降り、海を目指すのだ。
豊かな水量となだらかな流れは、船の沈没のリスクを減らしてくれる。神父の入れ知恵であった。
奪われ続ける体力とは裏腹に、旅は拍子抜けするほど順調であった。夜間、悪魔は活動しないのだ。
物陰から悪魔の姿を見ることは何度もあった。単独であったり、集団であったり、様々だったが、目撃したのは昼間のみ。「彼らは夜行性ではなく、昼間にしか活動できない種族なのだろう」。葉月は、この「嬉しい誤算」に手応えを感じていた。
緩やかな川の流れも、昼間の物陰探しを容易にさせた。見つかるリスクのない場所へ体を隠せるのは、精神的にも楽であった。夜間とはいえ、悪魔の作った橋の下を通る時はヒヤヒヤしたが、川の幅が広がる度に、目的地へと近づいた実感が嬉しかった。心なしか体が軽くなった気がする。振り返ると結界の中心である塔は、既に通り過ぎていた。
この川下り作戦の成功に葉月は確信を持った。
遠くから嗅ぎ慣れない匂いがする。ベタつくような風が吹くようになってきた。
油断があったと言えば、あったのだろう。誤算があったと言えば、あったのだろう。




