力の封印(カース)1 パルクール
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あの境界線には冷たい風が吹き抜ける。それは生命の息吹であり、世界の分断の象徴でもあった。
〜境界線の民の伝承より〜
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目的地が目視できるのは、旅が順調だと知っていても、また違った実感が湧いてくる。思えば、暗闇をか細い月明かりで進むような道程だった。紙一重の無事であったのかもしれない旅。目的地を目に焼き付けた高揚感と、遠くまで来てしまった不安が同時に胸を切なくさせた。
葉月は少し指先を下ろし、別の場所を指差した。渓谷の始まり、この滝が続く大きな川。そのたもとに立つ、巨大な「塔」と、それを囲む要塞のような構造物。
それを目にした瞬間、二人は同時に理解した。あれこそが、結界を作っているのだと。
しばしの眺めの後、三人は気を引き締めて歩き出した。ハッキリと目的地を見たのは大きい。不安はあるが、進めば、そこに近づくことができる。
滝を迂回し、渓谷の脇を通るルートを選んだ。眼下に川を見ながら進む。
アトラが足を滑らせ、渓谷の斜面を転がった。前回は器用に木に掴まり、クルンと一回転して、斜面を跳ねるように戻ってきたものだ。
渓谷の旅は落下との戦いだ。場合によってはその場で足場を作りながらの旅になるだろう。三人は開けた場所で休憩を取ることにした。昼間は緊張と疲労で重かった体が、日が落ちると少しだけ元気が湧いてきた。
渓谷と川の高さが近づいてきた。歩は遅かったが、着実に進んでいる。
異変に気づいたのは、アトラでも葉月でもなく、リアムだった。昼間の足の重さは、悪い足場と落下への恐怖のせいだと思っていた。だが、どうにも違う。アトラは落ちても平気というより、「落ちないように気を使いながら歩いている」ように見えた。
そして、アトラが川に落ちた。いつもならステップを踏んで戻ってくるはずが、水の中にドブンと落ちたのだ。彼は岩場に抱きつき、上がって来れない。
なんとかリアムはアトラを引き上げ、葉月に火を起こす魔法を使うように伝えた。
葉月はリアムがそんなことを言うのは珍しいと思いながら困惑した。動物さえも歩かぬ渓谷とはいえ、悪魔がそれほど強くないとはいえ、目立つ行為は避けたかった。
気圧されるように、葉月は魔力を集中させ、なるべく目立たないように魔法を放った。
だが――魔法は放たれなかった。何も起こらなかったのである。




