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ブラッドカーストファンタジア  作者: 十三番目
第三章 血の盟約

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第六十四滴 疑惑


 根源的な恐怖が、その場を支配する。

 竜に逆鱗があるように、神にも触れてはならないものがあったらしい。


 ごっそり抜け落ちた表情と、闇よりも深い瞳。

 気配だけで人を殺せそうな珠羅(しゅら)へ、夏論(かろん)の視線が向けられた。


 幻想種(ファンタジア)の中で最も愛想が良く、最も底知れない存在。

 夏論にとって珠羅は、同じ最強の一角でありながら、どこか一線を画す存在でもあった。


 常に飄々としていて掴みどころのない珠羅が、傍目にも分かるほど怒りを露わにしている。

 初めて見る珠羅の姿に、未来留(みくる)もまた、驚きを隠し切れないようだった。


「あー、これやばいかもぉ。まさか、こんなに怒るとは思わなかったなぁ」


 微かに強張った声が、未来留の緊張を表している。

 まるで、刹那の時間が永遠に感じるほど重苦しく、命を直に締めつけるような圧だった。


 不意に、珠羅の瞳に一粒の光が差し込んだ。

 天璃(あめり)と交わした視線が、糸電話のように絡まっていく。


 柔らかく細められた目と、一瞬で戻った雰囲気。

 詰まりかけていた息が吸いやすくなったことで、舞台の上に安堵が広がった。


「飼い主って、そんなに特別なの?」


「……特別、なんじゃねえの」


 猛獣の多くは、飼い主がいない。というより、そんなものは必要ないと思っている。

 少し悩んでから答えた荒牙(こうが)に、未来留が「ふぅん」と相槌を打った。


獲物(たべもの)を飼い主にするなんて、やっぱあたしには理解できないや」


 せいぜい玩具になるだけだと続けた未来留が、ぐるりと辺りを見回す。


「というかこれ、どうしようねぇ」


 珠羅の圧に耐えられなかったのだろう。舞台の要所で、気を失った白の防御役たちが倒れている。

 黒の援護役が無事なことを考えるに、どうやら白の陣営だけを狙ってやったようだ。


 意識がない以上、棄権扱いにするしかない。珠羅の前を塞ぐ駒が消えたことで、今やキングまでの障害物はクイーンだけになっていた。


「誰もいなくなっちゃったね〜」


「もしかして、こっちが目的だったの?」


 未来留が天璃を巻き込んでも違反にならなかったように、珠羅が間接的に他の駒を傷つけたところで、問題にはならない。


 飼い主の負傷を逆手に取り、わざと怒ったふりをすることで、現状の打破を図ったのではないか。そんな疑惑が、未来留の脳裏を過っていく。


「どうだろうね〜」


 にこりと笑った珠羅からは、もう何の感情も読み取れなかった。

 もしかすると、未来留が天璃にちょっかいをかけることさえ、予測していたのでは──?


 そんなことはあり得ないと思いながらも、不穏な考えばかりが浮かんでくる。足元を炙られるような違和感を抑え込み、未来留は眼前の荒牙へと向き直った。


「ほら、次は君の番だよぉ」


 戦況は変わったが、引っくり返す方法なら残っている。

 勝負をつけようと話す未来留に、荒牙は気怠げな様子で敗北を宣言した。


「……気が削がれた。俺の負けでいい」


「はぁ?」


 踵を返した荒牙が、舞台から降りていく。

 朽苑(くおん)といい荒牙といい、二年一組の猛獣たちはいったいどういうつもりなのだろうか。どうせ未来留が勝つとはいえ、挑みもせずに去っていくとは。


 呆気に取られた未来留だったが、拭えない違和感に苛立ちも増していた。

 それもこれも全部、珠羅のせいだ。せっかくの楽しみに水を差されたあげく、上手いこと利用までされた。


 荒牙がいなくなったことで前方は拓けていたが、未来留はあえて左のマス目を進んだ。

 迎え撃つ側だった未来留は、まだ自陣の中にいる。それが何を意味するか、珠羅たちは気づいていないのだろう。


 朽苑と荒牙が消えたことで、黒の陣営の攻撃役は残り二人になっていた。しかも、その内一人は白の陣営側にいる。

 ひとまず珠羅の前方にクイーンを移し、迂回させることで時間を稼ぐ。その後は、キングを反対の端まで移動させればいい。


「優位に立ったつもりかもしれないけどぉ、どうあってもあたしたちに勝つことはできないよぉ?」


 キングとクイーンは一度だけ位置を変えられるが、黒の陣営は左右真ん中をそれぞれ別の攻撃役に攻められている。

 つまり、移したくとも移せる場所がない状態だ。


「残った攻撃役はそこそこ強いみたいだけどぉ、夏論ちゃんが相手じゃどうにもならないよねぇ」


「ふーん。それで?」


 話を聞いているようで、聞き流しているようでもある。珠羅の態度に苛立ちを覚えながらも、未来留は普遍的な事実に口角を吊り上げた。


「夏論ちゃんは絶対に負けない。だったらぁ、あたしはただ、時間を稼げばいいってこと」


 珠羅が通った道には、黒の援護役が立っている。

 援護役の役割は、味方の奪った領地で見張りを続けること。そして、再び攻め入られそうになった際は、その領地を奪った攻撃役を呼び戻すというものだった。


「どうせなら、援護役も気絶させておけば良かったのにぃ」


 未来留の足が、援護役のいるエリアのマス目を踏んだ。


「勝てないのに挑むんだ」


 さらりと断言した珠羅に、未来留が一瞬足を止める。

 珠羅と夏論は全く似ていないと思っていたが、共通点もあったらしい。

 圧倒的な強者は、傲慢ではなく事実を語る。


 珠羅と対面した未来留が、鬱憤を晴らすように笑みを浮かべた。


 

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― 新着の感想 ―
これが本当にを自分が傷つけられたら、あとは珠羅さんがなんとかしてくれるやろ!」って戦術だとしたら、天璃さんの肝の座り方おもろすぎる
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