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ブラッドカーストファンタジア  作者: 十三番目
第三章 血の盟約

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第六十一滴 方向転換


 開始の合図と共に、白の陣営が進むマスを指定した。

 初めは必ず前方だ。そこから先は、左右を含めた三方向から選ぶことができる。


 黒の陣営は、キングを最後列中央として、何列か前の斜め左側にクイーンを配置。一番手である珠羅(しゅら)は、境目である最前列の斜め右側を始まりとした。

 他の攻撃役は間を埋めるように配置されており、防御役はキングやクイーンの周りを囲うように立っている。


 対して白の陣営は、クイーンをキングと同じ縦列の前方に置き、攻撃役を珠羅と反対側から進ませることにしたようだ。

 互いに一つずつ。踏みしめたマス目が、それぞれの色に染まっていく。


 領地戦の勝利条件は、相手陣営のキングの元まで辿り着き──像を破壊することだ。

 所有した領地の広さを競うのではなく、先に王の首を取った方が勝つことになる。


「逝きたくね〜」


「ジャンケンで順番決めたでしょ。ほら、結解(ゆげ)先生も呼んでるじゃない。早く行ってきなさいよ」


「まあまあ。猛獣だらけの場所に立つのは、誰だって恐ろしいもんでっせー」


「……頑張って」


 クラスメイトの獲物たちが、ギャルっぽい生徒の背中を押している。

 宝探しの時もチームを組んでいた四人だ。どうやら、日常的に交流があるらしい。


「あの……」


「そこでいいよ〜。もし他の攻撃役がきても何とかするから、持ち場だけ離れないようにね」


 腹を括った生徒が、舞台の上にあがる。

 珠羅の指示で背後のマス目に立った生徒は、真顔で珠羅を凝視した後、「やっぱ超メロい」と呟いていた。


「いったんここで休みかな。てか君、早くそこ退いてよ」


「……」


「え。もしかして、寝てる?」


 反対側を進んでいた白の攻撃役が、防御役のいる最初のマスに到達した。

 目を閉じたまま微動だにしない千莉(せんり)を見つめ、攻撃役がドン引いた眼差しを向ける。


「おい、千莉!」


「……んがっ!」


 音夢(ねむ)の投げた消しゴムが、千莉の後頭部に直撃した。目を覚ました千莉は辺りをキョロキョロと見回し、不思議そうに首を傾げている。


「かたじけない。精神統一をしていたでござる」


「ああ、そう……」


 予想に反し落ち着いた様子の千莉だったが、瞼を閉じていた結果、そのまま眠りかけてしまったようだ。


麿(まろ)さん。そっちに移動してくれる?」


「承知でござる」


 天璃の言葉に頷いた千莉が、数マス後退した場所に佇む。

 負ければ場外の攻撃役。攻撃役の敗北に伴い場外に出される援護役と違い、防御役は少々特殊だった。

 一度だけ、別のマスで復活することができるのだ。いわば、ライフが二つの役職ということになる。


「やっぱ片側を固めてきたかぁ」


 後方から観察していた未来留(みくる)が、グッと身体を伸ばした。まるで誘導するかのような配置を眺め、不敵な笑みを浮かべる。


 他の猛獣から聞いていた話は、本当だったようだ。

 二年一組には、相当な切れ者がいる。それも、最強と名高い猛獣の“飼い主”だと言うのだから驚きだ。


 黒の陣営から見て左側は、クイーンと防御役によって固められている。本来なら右側が狙い目になるものの、珠羅を置くことで、自然と左側から攻めていく流れにさせられていた。


 可能な限りの遅延を施し、リスクを最小限にした動きで敵のキングを討ち取る。合理的な判断に感心した未来留が、「次はあたしの番だねぇ」と微笑んだ。


「あのねぇ、夏論(かろん)ちゃん」


「なんだ」


「ぶっちゃけますとぉ、頭脳戦では真っ白ちゃんに勝てそうにないかも」


 殺気を含んだ目が、未来留へと向けられる。


「私は初めから、あいつと戦わせろと言っていたはずだ。策に支障が出るなどという理由で、断ったのは貴様の方だぞ」


「分かってますってぇ。最強同士の戦いも見てみたいところだけどぉ、あたしは同じくらい本土の旅行券も欲しいんだよねぇ。負けたら貰えなくなっちゃうのに、適当なことするわけないじゃん。それにぃ、ルールに縛られた勝負をしたところで──つまんないでしょ?」


 猛獣同士の戦いに、ルールなど邪魔なだけだ。こんな試合に勝ったところで、夏論が満足するわけもない。

 本質をついた未来留の言葉に、夏論が殺気を消した。


「そのルールとやらがなければ、ここでは満足に殺し合うこともできないがな」


「まあねぇ。そもそもこの学園が創られたのって、猛獣にルールを学ばせるためでしょ? 卒業後に本土へ戻った先祖返りたちが、人間社会の秩序を脅かさないようにってねぇ」


 くだらないと吐き捨てた夏論が、「それで──」と口を開く。


「どうするつもりだ」


「頭脳戦は無理でぇ、最強は一人ずつ。でも、他の猛獣の戦力を合わせたら……いけると思わない?」


 三年三組が強いのは、何も夏論がいるからという理由だけではない。幻想種(ファンタジア)に準ずる力を持った未来留がいることで、クラスとしての強さも抜きん出ているのだ。


「黒の陣営で最も強い戦力は、すでにこっちの陣地にいる。だったらぁ、残りの戦力で攻めちゃえばいいってこと」


「策で勝てないと分かった途端、攻めの一択に切り替えるわけか」


 全ての守りを珠羅へと集中させ、あとは攻撃役同士で潰し合わせる。大胆で危険の伴う方法だ。

 もし白の陣営が全ての攻撃役を失えば、キングを壊せる駒がいなくなってしまう。つまり、敗北しか道がなくなるということだ。


「リスクなんてしーらない。だって、負けなければいいんだから。そうでしょ? 夏論ちゃん」


 強者は勝ち、弱者は負ける。

 孤高の存在である夏論が、未来留を傍に置いているのは、同じ理論を掲げている強者だからだ。


 本能と知略は相性が悪い。

 ならば、これもまた一興だろう。


 微かに笑みを浮かべた夏論を見つめ、未来留は玩具を与えられた子供のように目を細めた。


 

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