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ブラッドカーストファンタジア  作者: 十三番目
第三章 血の盟約

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第六十滴 強者と弱者


 最強格と称される幻想種(ファンタジア)。中でも、珠羅(しゅら)は頂点と名高い猛獣だ。

 これ以上、どんな言葉が必要だろうか。


「なるほどな。阿留多伎(あるたき)さんが相手なら、むしろ向こうから避けてくだろうし……このまま自陣に残るよりは安全かも」


 随所で負け戦を仕掛けるより、大局を見て動いた方が勝算も高くなる。唯一仕掛けられる者がいるとすれば、それこそ夏論(かろん)くらいだが、初めから最大戦力で潰し合うような悪手を打つとも思えない。


「……わたし、援護役がいい」


 一人が口を開いたのを皮切りに、次々と援護役への希望が挙がっていく。


「ほぼ全員、か」


 息を吐くように呟いた音夢(ねむ)が、天璃(あめり)の方を窺い見る。当の天璃はといえば、これといって動じた様子もなく、何かを考えているようだった。


「防御役は、私と兎々(とと)ちゃんで担当するつもり。あと数人欲しいところだけど、どうかな? 前方の人は早めに舞台を降りられるし、指示通りに動いてくれたら、そんなに危険もないと思うよ」


 防御役は、あくまで攻撃役の侵攻を一ターン止めるのが目的だ。攻撃役と直接戦う必要はない。

 午前の試合でも、前方に配置された防御役は早めに舞台を降りていた。


「あたしがやる。あと、千莉(せんり)も」


「……ほあ?」


 いきなり名前を呼ばれ、千莉が間の抜けた声を漏らす。


「拙者もでござるか?」


「テスト勉強、手伝ってもらうんだろ。だったら、その分の働きはしとかないとな」


「むむ……! たしかに、音夢殿の言う通りでござるな!」


 やる気に満ちた千莉を横目に、音夢が単純だと苦笑を浮かべる。


 痛いのは苦手だ。

 猛獣は怖いし、死ぬのはもっと怖い。危ない目になんて、遭いたくないに決まってる。


 それでも、学園(ここ)にいる限り、獲物(音夢)は常に選択する必要があった。



 入学前、祖父は怯える音夢に向けてこう言った。

 信の置ける強者に出会ったら、懐に入りなさい。お前に情をかけてくれる相手なら、悪いようにはしないだろうから──と。


 これまでの音夢は、それがどういう意味なのか、いまいち理解できていなかった。けれど、天璃と出会って、何となく分かったような気がしたのだ。



 春の訪れを示すような瞳が、音夢と千莉の姿を映し、次いで淡く解けていく。

 雪の下で色づく桃花を見つめ、音夢は素直に綺麗だと思った。




 ◆ ◆ ◇ ◇




 ファンタジア女学園は、生徒の八割以上を獲物が占めている。猛獣は各クラスに四人程度で、一クラス辺りの人数は、狩りの前で三十人ほどだ。

 今は生贄枠がおらず、夜の狩りで獲物が大幅に減ったため、二十人いればいい方だった。


 不意に、目元を黒い布で隠した生徒が、天璃の前を横切っていく。


 (そよぎ) 朽苑(くおん)

 入学してから誰とも関わらず、声を聞いた者さえいないことから、孤独を愛する猛獣と言われているらしい。


 珠羅、霊藻(たまも)荒牙(こうが)。そして、朽苑。

 この四人が二年一組の猛獣であり、今回の試合における攻撃役だった。



「例の猛獣、一番手になったんだぁ。スピード勝負にでも持ち込むつもりかな?」


「順番を変えろ。私が先に行く」


「ちょ、血の気多すぎぃ。ダメダメ。夏論ちゃんは、三番手って決めたじゃん」


 双方が位置についたことで、自然と視線が交錯する。相手の配置を確認していた未来留(みくる)は、珠羅と戦いたがる夏論を慌てた様子で諌めた。


「あ、真っ白ちゃんみっけ」


「また弱者を甚振るつもりか?」


「だってぇ、獲物ってちょっと驚かせただけで、プルプル震えて腰抜かしちゃうんだもん。なんか、虐めたくなっちゃうんだよねぇ。あ、でも、真っ白ちゃんは違うよ」


 天璃を見つけてはしゃぐ未来留(みくる)を、夏論が瞳孔の鋭い目で睨む。強者以外に興味のない夏論からしてみれば、未来留の思考は理解し難いものだった。


「あんなに可愛いんだもん。もっと着飾ってあげなくちゃ。あたしね、白には黒じゃなくて──赤が似合うと思うんだぁ」


 雪原に散る赤を想像して、未来留がうっとりと微笑む。


「一応言っておくが、あれは飼い主だぞ」


「分かってますってぇ」


 飼い主に手を出せば、ペットを怒らせるかもしれない。

 夏論の言葉に頷いた未来留だが、視線が天璃から外れることはなかった。


 歪んだ善意の塊は、時に悪意より残酷だ。

 とはいえ、飼い主(天璃)という弱者がどうなろうと、夏論はいっこうに構わなかった。


 強者は勝ち、弱者は負ける。どちらにせよ、この法則が変わることはないのだから。


 本当の最強はどちらなのか。

 初めから、夏論の目に映るのは、ただ一人だけだった。


 

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