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ブラッドカーストファンタジア  作者: 十三番目
第三章 血の盟約

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第五十九滴 切り込み


 午前の試合が終わり、カフェで昼食を取っていた天璃(あめり)たちは、午後に向けて作戦会議をしていた。


「問題は、誰をどこに配置するかやな。そやかて、あの惨状を見た後で、志願する獲物がおるとも思えん」


「無理やりさせたところで、足手まといになるだけだしね〜」


 覚悟のない者が脅威を前にすれば、尻込みするか、逃げてしまうかのどちらかだ。珠羅(しゅら)の言う通り、中途半端な人選は敗因に繋がりかねない。


 霊藻(たまも)としては、兎々(とと)を危険な目に遭わせたくないのだろう。かといって、代替案があるかと問われれば難しいところだった。


「なんや、天璃。食欲ないんか?」


「あ、ううん。そういうわけじゃ……」


 ほとんど手の付けられていない料理に気づき、霊藻が不思議そうに声をかけた。途中で言葉を濁した天璃に、兎々が心配そうな視線を向ける。


「思ったよりも、お腹が空いてなかったみたい。珠羅ちゃん、まだ食べられたりする?」


「天璃ちゃんが食べさせてくれるなら、余裕かも〜」


「ほんま、どこでもイチャつきよるな」


 ツッコミを入れつつも、霊藻も段々と慣れてきたのだろう。むしろこれが普通かといった様子で、対面の二人を眺めている。


 天璃の世話を焼きたがる珠羅だが、甘えるのも好きなようで、時折こうして何かを強請ってくることがあった。

 珠羅の口元までフォークを運びながら、天璃は内心で可愛い人だなと呟いた。




 ◆ ◆ ◇ ◇




 午前の試合を観戦していたことで、大体のルールは把握できている。

 たとえば、キングとクイーンは、一度だけ任意のマス目に移動させることが可能だ。自陣内であることが条件にはなるが、この二体の像に一マスずつの縛りは適応されない。


 実際、キングの近くまで攻め入られた一年側は、クイーンをキングの前方へと移動させていた。正面に不可侵の領域を作ることで、迂回しなければ破壊できないようにしたのだ。


 それでも横から狙われたため、最終的にはキングを角まで移し、時間を稼いでいた。その結果、ことごとく黒に塗り潰されてしまった訳だが。


 キングの初期位置は、チェスの初期位置と同じだ。つまり、自陣の最も手前の列、その中央辺りに位置している。

 対してクイーンは、初期位置を自由に選ぶことができた。


「えー、今回はあたしたちが白かぁ」


「大した違いはない。いちいち騒ぐな」


「うう……夏論(かろん)ちゃんってば、冷たいんだからぁ」


 夏論にギロリと睨まれ、ツインテールの少女が悲しむふりをする。


 司空(しくう) 夏論と、獅子内(ししない) 未来留(みくる)

 対戦相手の猛獣については、事前に霊藻から共有されていた。中でも二人は有名な家柄のようで、猛獣としての強さも群を抜いているらしい。


 特に、珠羅と同じ幻想種(ファンタジア)であり、(ドラゴン)の先祖返りでもある夏論は、最も警戒すべき相手だった。


「あ、二年ちゃんたちみっけ」


 不意に、未来留の目が天璃たちを捉えた。弾むように近づいてきた未来留は、天璃を見て顔を輝かせている。


「すごぉい、ほんとに真っ白だ」


 物珍しさから天璃を観察していた未来留が、「アルビノなんだっけ?」と聞きながら、髪に触れようと手を伸ばす。その手を阻むように、珠羅が天璃の身体を抱き寄せた。


「そろそろ始まるみたいだよ〜。早く自分の陣地に戻ったら?」


「お気遣いどぉも。でも、どうせこっちもあたしたちの陣地になるんでぇ……問題ないと思いません?」


 挑発的な態度だった。鋭く光る目は、勝利を微塵も疑っていない。


「へ〜、すごい自信だね」


「口だけなら、何とでも言えるからな」


 近くで見ていた霊藻が、冷ややかな視線を向ける。ヒリつき始めた空気に、未来留は可愛い子ぶった仕草をとると、唇をツンと尖らせた。


「ひどぉい。もーいいもん」


 踵を返した未来留が、ツインテールを揺らしながら去っていく。

 その後ろ姿を、天璃はただ静かに見つめていた。




 ◆ ◆ ◆ ◇




 広々とした舞台の上に立つと、不思議と心が凪いだ。白と黒の境界線が、天地の分かれ目のようにも思える。


 キングの像を背に、クイーンを自陣の中央辺り、その斜め前に配置した。相手のクラスも、クイーンを手前側に置いている。


 クイーンのいるマス目は不可侵になるため、相手の侵攻を遅らせ、なおかつ攻め入るルートを絞らせる手段としても効果的だ。クイーンの周りを他の駒で固めることで、実質片側のルートを通行止めにすることもできる。


 では、他の駒とはいったい何を表すのか──?


 答えは、一つしかなかった。



「敵地に攻め入り、領地を奪う“攻撃役”の駒。奪った領地に立ち、見張りをする“援護役”の駒。自陣で待機し、侵攻から領地を守る“防御役”の駒。攻撃役は猛獣がやるとして、問題は残りの二つかな。私たちは、どちらかを選ばないといけないから」


 クラスメイトに役割を説明していた天璃が、周囲を見回し一呼吸ついた。

 この試合のルール上、猛獣だけではどうあっても数が足りない。つまり、不足した分を埋めるのは獲物ということだ。


「午前の試合で分かる通り、進んだマス目よりも後ろに戻ることはできない。ただし、援護役は味方の奪った領地で見張りを続け、再び攻め入られそうになった際は、その領地を奪った攻撃役のみ呼び戻すことができる。防御役の駒よりも、危険度は低くなると思うよ」


「あのさ、質問いい?」


 緊張を呑み込み手を上げた音夢(ねむ)に、天璃が肯定を返す。


「さっきの試合でも、それぞれ一人、攻撃役が真っ先にキングを目指して進んでたよな。駒同士がぶつかれば、白黒関わらず一ターン休みになる。その間に、他の攻撃役が別のルートから進んでいく……って流れだった。ってことはさ、後ろにいる攻撃役が奪われた領地を狙えば、そこにいる援護役も巻き込まれることにならない?」


「たしかに、先陣を切る駒は、相手の陣地にまだ他の攻撃役がいる状態で進むことになる。奪った領地も、後方で控えている攻撃役なら奪い返すことができる。ただし、駒同士がぶつかった場合、負けた側の駒は一つ減ることになるよね」


 同じマス目で接触すれば、争いが発生する。勝った方はそのマスを自陣として所有できるが、負けた方は攻撃役を一つ失うことになるのだ。


「援護役も防御役も、お互い獲物が担当することになる。攻撃役とぶつかれば棄権扱いになり、一ターン消費させるという最低限の役割しか果たせない。でも、領地を取り返すためには、必ず攻撃役同士が戦うことになる」

 

「……じゃあ、なおさら危ないんじゃ……」


 誰かがポツリと呟いた言葉に、他の生徒たちも不安の色を滲ませていく。


「だからこそ、安全なんだよ。相手も本気で勝ちを狙ってる。負けると分かってる戦いに、わざわざ貴重な攻撃役を行かせたりしないはずだから」


 ただ気まぐれにやって来たのではない。未来留は、挨拶をしにきたのだ。

 今からお前たちを下す相手だと。そう、宣戦布告をしにきた。


「少なくともこの試合では、援護役は防御役より安全だと思うよ。先陣を切る攻撃役は──珠羅ちゃんだからね」


 

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