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ブラッドカーストファンタジア  作者: 十三番目
第三章 血の盟約

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第五十八滴 優先順位


 領地戦。

 特定のエリアの支配権を賭けて戦い、勝利条件はルールによって異なる。


 どうやら、正方形のマス目はそれぞれ領地を表しており、支配した側に伴って色も変化するようだ。ちょうど真ん中を境界として、マス目の色が白と黒に分かれていく。

 一年側のマス目は全て白に、三年側のマス目は全て黒になった。半分に分かれた領地の上を、生徒たちの足が踏みしめる。


 舞台を囲む観戦席には、学年対抗戦に進めなかったクラスの面々もいた。寮などからモニター越しに見ることも可能だったが、直接観戦しにきたらしい。

 見知った顔ぶれの中には、(ぜに)清妃女(きよひめ)を含む、三組の生徒たちの姿もあった。


 結解(ゆげ)の説明を聞きながら、舞台の上を観察する。一年と三年。歳の差はあれど、弱肉強食を正義とする学園において、そんなものは些細な違いでしかない。


 椅子に座った天璃(あめり)兎々(とと)を挟むように、珠羅(しゅら)霊藻(たまも)が両隣に腰掛けた。同じクラスごとに固まっていたため、音夢(ねむ)たちとも比較的近い席だ。

 珠羅を見るなり身体を強張らせた音夢に気がつくと、霊藻はチラリと視線を投げかけた。


「あんま怖がらせんなや。始まる前から萎縮させとったら、使いモンにならなくなんで」


「え〜、何もしてないのに」


「よぉ言うわ。えらい念のこもった目をしよったで」


 呆れ半分な霊藻だが、怖がらせたことよりも、これからの試合で使えなくなることを心配しているようだ。

 天璃に寄りかかった珠羅が、じいっと顔を覗き込む。僅かに沈黙した後、天璃は伏せていた目を上げた。


「敵意のない人だから、出来ればそっとしておいてあげて」


 庇うような言葉に、珠羅の中でザワリとさざ波が立つ。


「ふーん。じゃあ、もしまた怖がらせたら、私のこと嫌いになる?」


「え? ううん、ならないよ」


 即答だった。

 一切の躊躇なく返され、拍子抜けした珠羅が目を瞬く。


「少しも?」


「うん。少しも」


「どうして?」


 引っ込んだ波の代わりに、純粋な疑問が湧いてくる。ふわりと微笑んだ天璃が、珠羅の前髪を耳にかけた。


「私が一番大切なのは、珠羅ちゃんだから」


 まるで、感情のブレーキがなくなり、歯止めが効かなくなっていくようだった。

 天璃という存在にのめり込んでいく自覚がありながら、止める術を持たない。いや──むしろ、止めようとする気さえなかった。


 口元を両手で押さえた兎々が、茹蛸のような顔をしている。

 色々と諦めた様子で息をついた霊藻は、始まった試合を見るため舞台に視線を戻した。




 ◆ ◆ ◇ ◇




 領地戦のルールはこうだ。

 白の領地が先行、黒の領地が後行となり、互いに一つずつ相手の陣地を自陣へと変えていく。


 それぞれ半分の領地からスタートし、前に一つ、または左右に一つのマス目を進むことができる。後ろのマス目に戻ることは出来ないため、進む際は注意が必要だ。


 各陣地には剣をもったキングの像と、盾を持ったクイーンの像が置かれている。勝つためには先に相手陣営の奥に辿り着き、キングの像を破壊する必要があった。

 反対に、クイーンの像が置かれたマス目は“不可侵の領域”となるため、破壊することは禁じられていた。



 もしも要領を得たいのなら、先に出るのも有りだった。

 一試合目は聞かされたばかりのルールを基に、双方が手探り状態で戦う。しかし、二試合目はそうもいかないだろう。

 勝利した側は間違いなくコツを掴み、より的確な手段で攻めてくるはずだ。


 とはいえ、天璃がその程度のことに気づかない訳もなく。千莉(せんり)にシード枠を手に入れさせた時点で、とっくに想定済みだった。


 三年三組は、去年の学年対抗戦でも優勝しているクラスだ。そして、珠羅と同じ──幻想種(ファンタジア)がいるクラスでもある。


 生徒同士の協力。ルールによる縛り。それらを活かせなければ、いくら珠羅がいても勝つのは難しいだろう。

 最強を、()()()()()使う方法。


 真剣な眼差しで試合を眺める天璃を見つめ、珠羅はゆるりと目を細めた。




 ◆ ◆ ◆ ◆




「一年ちゃんたちぃ、もうちょっと頭を使おうね」


「無駄口を叩くな。どうせ使ったところで、弱者は強者に勝てない」


 悲惨な光景だった。

 粉々になったキングの像の近くには、傷だらけの生徒たちが転がっている。重症を負った生徒の中でも、生死に直結しやすい獲物から、優先的に担架で運ばれていった。


「可哀想。もっとマイルドに言ってあげなよぉ」


「時間を無駄にするつもりか?」


「いやん、辛辣ぅ。さすが、(ドラゴン)の先祖返り様は言うことが違いますねぇ」


 ツインテールを揺らした少女が、おかしげに笑う。

 竜の先祖返りと呼ばれた猛獣は、黒に染まった舞台を冷めた表情で一瞥すると、そのまま振り返ることなく去っていった。


「強くてごめんねぇ」


 悔しそうな敗者たちを、少女が煽るように見下ろす。

 踊り出しそうな足取りで舞台を降りていった少女もまた、残酷で華麗な猛獣だった。


 

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