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ブラッドカーストファンタジア  作者: 十三番目
第三章 血の盟約

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第五十七滴 不思議な人


 グラウンドのように整えられた地面の上には、チェス盤を彷彿とさせる舞台が設置されていた。

 巨大な四角形の中に、正方形のマス目が存在しており、まるで市松模様のようだ。


 一年二組、二年一組、三年三組。それぞれクラス対抗戦を勝ち抜いた組が、学年ごとに集められている。

 前方の台に上がった結解(ゆげ)は、卵型の石が三つ乗ったトレイを持っていた。


「今年の学年対抗戦は、一対一で行うことになりました。まずはここにある石を選んでもらい、同じ色を引いたクラス同士が戦います。勝ったクラスは残ったクラスと戦い、最終的な優勝を決めるという流れです」


 対抗戦の日程は、午前と午後に一試合ずつとなっている。同色を引いた場合、優勝するにはどちらの参加も必要になるだろう。

 異なる色を引いたクラスはシード枠となるため、午後のみの参加になるようだった。


「では、石を選ぶ生徒は前へ」


 生徒たちの間で、緊迫した空気が漂い出す。

 誰が行くべきか。互いに探り合っていた視線は、自然と天璃(あめり)たちの方へ向かっていく。


「カースト順でいくなら、阿留多伎(あるたき)か天璃が適任やろな」


「天璃ちゃんが決めていいよ〜」


 最強格の猛獣と、その飼い主。組の代表にも相応しい二人に、選択権が委ねられる。

 珠羅(しゅら)の言う決めていいは、好きにしていいという意味だ。何やら考えを巡らせていた天璃は、不意に斜め後ろを振り返った。


麿(まろ)さん。選んできてくれないかな?」


「……んえ?」


 気の抜けるような声を漏らした千莉(せんり)を、音夢(ねむ)が肘で小突く。


「おい、千莉。話聞いてなかっただろ。前に行って、石を選ぶんだってさ」


「もしや、拙者が選ぶのでござるか……?」


「だからそうだっての。いいから早く行ってこい」


 呆然とした顔の千莉だったが、周囲の様子から冗談ではないと悟ったのだろう。冷や汗を垂らしながら、右手と右足を同時に動かしている。


「麿さん」


「ななな何でござろうか、御門(みかど)殿」


 機械のように固まった千莉が、ギギッと音が鳴りそうな動作で天璃の方を向いた。天璃は千莉に近寄ると、耳元で何かを囁いている。

 次の瞬間──まるで魔法の言葉でも聞いたかのように、千莉の緊張が雲散した。


「本当でござるか!?」


「うん。だからよろしくね」


「もちろんでござる!」


 さっきまでの雰囲気は何処へやら。千莉は今にもスキップしそうな勢いで、結解の元へと歩いていった。


「千莉になんて言ったの?」


 珠羅や霊藻(たまも)がいる際は、あまり近づいてこない音夢だが、どうやら好奇心には勝てなかったらしい。不思議そうな音夢に微笑むと、天璃はおもむろに口を開いた。


「代わりに選んできてくれたら、今度のテストで赤点を回避できるように手伝うよって言ったの。麿さんは、赤点になりそうな教科がいくつかあるって話してたから」


「よくそんな事まで覚えてたな……」


 流石だと言わんばかりに呟いた音夢が、眼鏡のフレームを指で押し上げる。


「やっぱ凄いわ、リ……御門さん。あたしよりずっと千莉の扱いも上手いしさ」


「うーん。そうでもないと思うけど……。そういえば、(とどろき)さんたちは、普段どうやって狩りを乗り切ってるの?」


 狩りよりもテストの心配をするくらいだ。すでに卒業まで生き延びる算段があるのかもしれない。

 そんな意図を含んだ問いかけに、音夢はどこか乾いた笑みを浮かべた。


「癇癪を起こした千莉をソッコーで眠らせて、そこから先は千莉の能力頼りに何とかって感じかな。ま、ほとんど千莉のおかげみたいなもんだけど」


 狩りの開始後、猛獣が行動を始めるまでには少し時間がある。挙動不審な千莉を強制的に眠らせることで、早めに精神を落ち着かせていたのだろう。

 音夢が宥め、千莉が導く。ここまで生き残ってこれたのは、二人が一緒にいたからこそだった。


「じゃあ、なおさら一緒に卒業しないとね」


 淡々としているようで、温かみの混じる声だった。

 吹き抜けた風が天璃の髪をなびかせ、横顔を覆い隠していく。


 不思議な人だと思った。

 誰かを見捨てる冷酷さを持ちながら、他人に対する情も持ち合わせている。


 多分、音夢は今──少しだけ心を許されたのだ。

 邪魔になると判断すれば、簡単に手を離せてしまう天璃の、()()()()()()部分に触れた。

 それが何だか、無性にくすぐったかった。


「……分かってる。留年は回避できそうだし、千莉と生きてここを出るって約束したからな」


 不器用な音夢の、精一杯の本音。

 込み上げる羞恥心で口を噤んだ音夢の耳に、騒つく生徒たちの声が届いた。


「一試合目は、一年二組対三年三組に決まりました。二年一組は観戦席へ移動してください」


 いつの間にか、卵型の石がパッカリと割れており、断面から色のついた宝石が覗いていた。千莉が青色なのに対し、残りの二人は緑色をしている。


 観戦席を探して視線を彷徨わせた音夢の目が、ほんの一瞬、珠羅のそれと重なった。

 ブワリと吹き出した冷や汗が、じわじわと背中を濡らしていく。どこまでも暗い闇色の瞳に、身体が本能的な恐怖を訴えていた。


「拙者、やりましたぞー! って、およ……音夢殿?」


 戻ってきた千莉の手を引き、天璃たちから距離を取る。異変に気づいた千莉が、心配そうに音夢を見つめた。


「それでは、学年対抗戦を始めます」


 結解の声に続いて、一年と三年が巨大な舞台へと上がる。それぞれ片側に寄っているためか、生徒たちの姿はまるでチェスの駒を彷彿とさせた。


「これより──領地戦を行います」


 

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