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ブラッドカーストファンタジア  作者: 十三番目
第三章 血の盟約

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第五十六滴 真偽


 学年対抗戦のルールは、当日になるまで明かされない。クラス対抗戦より負傷者が多く、危険度も高いことは確かだが、あとは過去の記録から予測するしかなかった。


「なるほどな。心の中(真偽)を覗ける能力か」


百目鬼(どうめき)先生の家系は、女性の能力者であれば、先祖の力の一部を使うことができるみたい」


 対抗戦が始まるまでの間、天璃(あめり)たちはいつもの席で、雑談という名の情報共有をしていた。寮にも自由に使えるスペースはあるものの、猛獣だらけの場所より教室の方が良いという結論になったのだ。


「にしても、盲点やったな。大した家柄でもあらへんし、ここ百年は先祖返りも生まれとらんはずや。百目鬼家……完全に頭からすっぽ抜けとったわ」


「どうして、百年も生まれてないって分かるの?」


「先祖返りが生まれた家は、他の家に対して通知義務が発生すんねん。せやから、過去百年分の記録は全部頭に入っとる。そこに、百目鬼の名前はあらへんかったっちゅうわけや」


 霊藻(たまも)の家は警察関係ということもあり、裏の法にも詳しい。おそらく、脳内には警戒すべき相手の情報が叩き込まれているのだろう。


「能力者に通知義務はないんだね」


「えっと、集まりで顔合わせをすることはあるけど……そのくらい、だよ」


「まあそれも、親や親戚に連れられてって場合がほとんどだけどね〜」


 遠慮がちに口を開いた兎々(とと)は、珠羅(しゅら)の言葉を肯定するように頷いている。

 先祖返りと能力者。どちらも珍しい存在だが、やはり先祖返りに対する比重が大きいようだ。


 今回のきっかけとなった東妻(あずま)くくりも、著名な家が主催するパーティーで珠羅と出会っている。家のしがらみはあれど、家族のいない天璃にとって、三人の話はどこか新鮮で、ほんの少し羨ましく思えた。


「そもそも、能力者は先祖の影響を受けへん。女性の能力者だけっちゅうのも、どっか引っかかんねんな」


「それってつまり、同じ家系でもどんな能力者が生まれてくるかは分からないってこと?」


「せや。先祖返りは隔世遺伝、能力者は突然変異って言うた方が近いのかもしれんな」


 思案顔の天璃の髪を、珠羅が指でクルクルと弄り始める。


「私の兄二人も能力者だけど、全然違う能力だよ〜」


「ほんま、阿留多伎(あるたき)んとこは規格外すぎんねん。能力者二人に続いて先祖返りまで……砂漠でオアシスを見つけるより珍しいことやで」


 とんでもない確率だと眉を上げた霊藻は、「ひとまず──」と呟きながら天璃に視線を向けた。


「百目鬼先生のことは、うちも警戒しとく。要するに、嘘発見器っちゅうことやろ。今後は見かけても、あんま近づかんようにしとき」


 不安そうな兎々の頭を、霊藻が優しく撫でる。


 不意に、教室のスピーカーから放送が流れた。

 指定の場所に集まるよう話す内容を耳にして、霊藻が「時間やな」と窓の外を眺める。


「続きはまた後日やな。こっから先は、他のことなんて考えとる余裕はないかもしらん」


 席を立った天璃を見上げ、霊藻がにんまりと口角を上げた。


「勝つんやろ?」


 霊藻の目を見返し、天璃が無言のまま微笑む。ただ大人しくしているだけの性格ではないことを、霊藻たちもとっくに理解しているようだった。


「あのね、珠羅ちゃん」


「なぁに?」


 校舎を出た天璃が、珠羅の服の裾を引く。


「もし優勝できたら……今度は()()()()、ご褒美をあげるね」


 珠羅の纏う空気が、僅かに揺れた。


「ふーん。じゃあ、楽しみにしてるね〜」


 にこりと笑みを浮かべた珠羅が、天璃の唇を指でなぞる。


 立ち止まっていた天璃たちを振り返り、霊藻はまたかと言わんばかりのため息をついた。




 ◆ ◆ ◇ ◇




「いかがでしたか、百目鬼先生」


 職員室の近くで声をかけられ、百目鬼は背後を振り返った。一組の担任である結解(ゆげ)の姿を映し、緩やかに目尻を下げる。


「宝探しの前に、ちょうどお会いできたので伺ってみましたが、嘘をついた際に起こる心の動きは見られませんでした」


「では、何も知らないということですね」


 安堵した様子の結解が、小さく息をつく。教師らしい反応に微笑んだ百目鬼は、「それはどうでしょう」と含みのある態度で視線を逸らした。


「……どういう意味です? 嘘をついていないなら、地下の秘密についても、気づかれていないはずでは」


 訝しげな表情の結解が、意味を問うように百目鬼を見つめる。


「御門さんの心の中は、ぽっかりと空いた穴のように真っ暗でした。これまで多くの生徒の心を覗いてきましたが、あのようなものを見たのは初めてです」


 まるで、人形のように空虚な内側だった。

 違和感の正体が何なのか。好奇心を宿した眼差しが、結解へと向けられる。


「結解先生。御門さんは本当に──人間なのでしょうか?」


 辺りに静寂が訪れた。

 短いはずの時間が、やけに長く感じる。やがて、沈黙を破った結解が、はっきりとした口調で答えた。


「おかしなことを聞かれますね。入学前に検査が行われているのは、百目鬼先生もご存知のはずです。人間でなければ、そもそも転入自体認められていません」


「そうでしたね。おかしなことを聞きました」


 断言した結解に、百目鬼がすんなりと退く。


「私が嘘を言っていないのは、お分かりになったはずです。今後は、勝手に心を覗くのは止めてください」


 淡々と告げた結解は、職員室のドアを開けると、そのまま中へと入っていった。


 

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― 新着の感想 ―
ご褒美をあげるってのが、飼い主感すごく出てて好き
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