表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラッドカーストファンタジア  作者: 十三番目
第二章 飼い主の実力

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/67

第五十四滴 優秀な駒


 クラス対抗戦が終わり、学年ごとに最も良い成績を収めたクラスが発表された。


 賞品である“黙認権”を与えられたことで、一組の生徒たちは湧き上がる喜びを噛み締めている。特に、音夢(ねむ)千莉(せんり)の喜びようは凄まじかった。


「これで、吸血鬼のことについて調べられるね」


「せやな。そやかて、うちらの目標は学年対抗での優勝や。まだ気は抜けへんで」


 後天的に能力者を造る実験。それに関わっているであろう吸血鬼の存在。真相を究明するためにも、今回の賞品は必要不可欠なものだった。


 ひとまず目的は達成したものの、学年対抗戦について口にした霊藻(たまも)は、どこか難しそうな表情を浮かべている。


「学年対抗戦って、どんなことをするの?」


「あっちは種目やのうて、直接のぶつかり合いや。獲物がサポートなんは変わらんが、危険度は高なるやろな」


 競技と言うより、闘技のような雰囲気だ。たとえサポートでも、猛獣同士の戦いとなれば、獲物側も巻き込まれる可能性は高くなるだろう。


 昨年は三組が学年対抗戦に進んだため、一組は今回が初めての参加になる。ふと視線を向けた霊藻が、不思議そうに天璃(あめり)へ問いかけた。


「そういや、天璃はなんで“神の雫”が欲しいん?」


「珍しい宝石に興味があるの。特に神の雫は……ずっと探してた物だったから」


「ほーん。らしいで、阿留多伎(あるたき)


 ──当然、勝つ自信はあるのだろう?

 投げかけた言葉の裏には、煽るような感情が込められている。


 可愛い飼い主の頼みは、叶えてやるのがペットというものだ。性格も思考も異なる二人だが、霊藻の掲げるこのモットーだけは、珠羅(しゅら)とも通じているように思えた。


「天璃ちゃんのお願いなら、何でも叶えてあげるよ〜」


「……何でも?」


「うん。何でも」


 普段は軽い口調が、幾分か重みを持って聞こえる。一瞬、空っぽの心が脈打ったような感覚になった。

 何でもなんて、荒唐無稽な話だ。それでも、珠羅ならばやり遂げてしまいそうに思えるのは何故だろうか。


 誰にも言わずにいた秘密が、不意に口から溢れそうになる。

 霊藻や兎々(とと)はおろか、珠羅にさえ話していない内緒の話──。


 親がいない天璃にとって、全寮制で学費の免除があるファンタジアは、転入先として最適だった。

 この話は事実だ。しかし同時に、建前の話でもある。


 なぜなら、天璃がここに来た()()()()()は、とある物を探すためだったからだ。


 偶然でも、運が悪かったのでもない。天璃は自ら望んで、この残酷な学園へと足を踏み入れた。

 そして、糸口となる神の雫の存在を知り、何としても手に入れたいと思ったのだ。


「どうしたの?」


 天璃の変化を感じ取り、珠羅が天璃の顔を覗き込んだ。さらりと垂れた黒髪は艶やかで、枝毛ひとつ見当たらない。


「ごめんね。少し考えごとしてた」


「そ? あんまり根を詰めすぎないようにね〜」


 にこりと笑った珠羅が、指で天璃の目元をなぞった。

 ところ構わず二人の世界に入る天璃たちを横目に、霊藻はまたかと言わんばかりの空気を漂わせている。仄かに頬を赤らめた兎々が、絵画でも見つめるように、その様子をじっと眺めていた。


「そういえば、霊藻ちゃんは百目鬼(どうめき)先生について何か知ってる?」


「百目鬼先生? いや、二組の担任ってこと以外、これといってやな。なんか気になることでもあったんか?」


 唐突な話題に、霊藻が目を瞬かせる。


「うーん。気になると言えば気になるんだけど……もう少し、整理してから話してもいいかな?」


「かまへんで。ほな、明後日にでも聞かしてや」


 クラス対抗戦と学年対抗戦の間には、丸一日休みが取られていた。計三日に及ぶ行事だが、競技があるのは二日だけらしい。


「分かった。じゃあ、また学園でね」


「まっ、またね……天璃ちゃん、阿留多伎さん」


「ゆっくり休みや」


 寮に着いたことで、それぞれ自分たちの部屋へと戻っていく。

 兎々に手を振り返した天璃は、珠羅と共に最上階へ繋がるエレベーターに乗った。




 ◆ ◆ ◇ ◇




 部屋に響いたチャイムの音に、顔を上げる。天璃の膝を枕に寝転んでいた珠羅が、玄関のある方へ視線だけを向けた。


「ご飯、届いたみたいだね」


 優しく頭を撫でると、珠羅が仕方ないといった様子で身体を起こす。


「あーあ。せっかく、気持ちよく寝てたのにな〜」


「ふふ。膝枕くらい、いつでもしてあげるよ」


 不満を漏らす珠羅にくすくすと笑いながら、天璃は玄関に行くとドアを開けた。


「お食事をお持ちしました」


 ドアの前に立っていた希杏(きあん)は、メイド服にエプロンといった、給仕用の服を身に纏っている。配膳用のワゴンを玄関の中に押し入れた希杏は、天璃を見るなり、咲き乱れる花の如く感極まった表情になった。


「まさか、こんなにも早く御門(みかど)様に頼っていただけるなんて……!」


 以前、希杏に渡された用紙のことを思い出した天璃は、試しに文字を書いて、水に溶かしてみたのだ。半信半疑だったが、どうやらしっかりと伝わったらしい。


「こちら、依頼されていた内容の調査結果です」


 小指サイズの巻物を受け取り、中を確認する。


「よくここまで調べられたね」


「それはもう、御門様のためなので……」


 モジモジと恥じらう姿は可憐に見えなくもないが、中身が呪物なので、相殺どころかマイナスだ。

 巻物に書かれた百目鬼の情報は、天璃の気になっていた違和感とぴったり当てはまっていた。


「忍びの家系って言ってただけあるね」


「ご満足いただけたなら幸いです」


 感心した様子の天璃に、希杏が期待に染まった眼差しを向ける。


「ではその……褒美などを、いただけたり……?」


「なにが欲しいの?」


 嫌な予感はするが、働きに対する報酬と思えば無碍にもできない。恭しく跪いた希杏は、熱い吐息をこぼすと、懇願するような顔で天璃を見上げた。


「どうか、思いっ切り……踏んでください!」


 死んだ魚のような目とは、今の天璃のことを指すのかもしれない。凍えた表情と生気のない瞳が、虫でも見るかのように希杏を映す。


 病的なまでのドMという欠点さえ除けば、希杏はとても優秀な人材(こま)だった。間違いなく、今後も役に立ってくれるだろう。

 対して天璃は、目的のためなら自らを駒として使うことも厭わないタイプだ。希杏を手元に置くメリットがある以上、天璃自身の感情など……二の次だった。


 虚無で心を満たし、無表情のまま足を持ち上げる。蔑みの視線にさえ喜びを露わにする希杏を見下ろし、天璃は容赦なく背中を踏みつけた。


「ああっ! 良いです女王様……!」


 この苦行に耐えるくらいなら、宝探しの方がマシだったかもしれない。グリグリと体重をかけながら、天璃は感情を失った人形のように、ただそんなことを考えていた。


「そんなに踏んで欲しいなら、私が踏んであげようか〜? 骨の十本や二十本は折れちゃうかもしれないけど」


 身体が浮遊する感覚に、パチリと目を瞬く。

 いつの間にか玄関まで来ていた珠羅は、天璃を片腕に抱え、感情の読めない笑みで希杏を見下ろしている。


「そっ、そんな贅沢な……! この名張(なばり) 希杏、これからもお二方のために誠心誠意お仕えしま……はうっ!」


 明らかに、鳴ってはいけない音がした。


 快感に身悶える希杏を玄関から蹴り出すと、珠羅は「ご飯にしよっか〜」と言いながら、天璃をリビングへと運んでいった。




 第二章 飼い主の実力  【完】




 ◆ ◇ ◆ ◇




 読者の皆さまへ



 ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


 皆さまからのブックマークや星評価等々、全て執筆のモチベーションに繋がっております。

 沢山の応援をいただき、本当に感謝ばかりです。


 三章では学年対抗戦の決着や、暗躍する吸血鬼たちの目的。天璃の謎についても、徐々に明かしていく予定です。

 これからも楽しんでいただけるよう、一話一話を大切に紡いで参ります。


 また次章でも、読者の皆さまとお会いできますように。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ひっそりと応援してます
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ