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ブラッドカーストファンタジア  作者: 十三番目
第二章 飼い主の実力

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第五十二滴 王手


 何処からか現れたウサギが、ぴょこぴょこと床の上を跳ねている。

 真っ白なウサギは、まるで湧き上がる泉のように際限なく増え続け、通路をびっしりと埋めていった。


「う、ウサギ……?」


 三組の生徒たちが、困惑した表情を浮かべている。大量のウサギは軽快に跳ねながら、どんどん(ぜに)たちの方へと近づいていく。


 思わず後退りした生徒たちをつぶらな瞳で見つめると、突然──ウサギが体当たりでもするかの勢いで、一斉に飛びつきだした。


「きゃー! ちょっと、なによこれ!?」


「手を振り回さないで! ウサギさんたちが怪我したらどうするの!」


「そんなこと言ってる場合じゃ──」


 いつの間にか、生徒たちの足元にポッカリと穴が開いていた。穴の先は真っ暗で、何処に続いているのかは分からない。

 ウサギは生徒たちを穴の方まで押しやると、そのまま数の暴力で中へと落としていく。


 生徒たちに続いて、最後の一匹が穴の中に消えた後、そこには何ら変哲のない床が広がっていた。




 ◆ ◆ ◇ ◇




「面白い能力だね〜」


「せやろ」


 偽りのない褒め言葉に、霊藻(たまも)がにんまりと笑う。モニターに映る兎々(とと)は、不安そうな顔をしつつも、目は真っ直ぐ前を向いていた。


「ウサギを召喚して、対象者を穴に落とすっちゅう能力やねん。どこぞの童話みたいやろ」


「穴の先は何処に繋がってるの?」


「ランダムや。それが、代償やからな」


 ふーんと相槌を打った珠羅(しゅら)が、モニターに視線を戻す。

 対象の強制転移。白ウサギを追いかけ、穴に飛び込んだ少女とは似つかないが、ウサギに導かれたという点では同じなのかもしれない。


 穴に落ちた生徒たちは、今頃何が起きたか理解できず、困惑していることだろう。どのみち、別棟から出た時点で、生徒たちの失格は決まったのようなものだった。


「残り五分か」


「じゃあ、そろそろ迎えに行こーっと」


「最後まで見なくてええんか? ……いや、愚問やったな」


 珠羅ならば、モニターを介さずとも天璃たちの状況を知ることができる。何より、盤上はすでに詰みにも等しい状態だ。

 王手がかかった以上、結末はもう分かりきっていた。


 別棟までは少し距離がある。

 可愛い飼い主を労うため、霊藻も珠羅と共に席を後にした。




 ◆ ◆ ◆ ◇




「……あらら。これは中々に予想外でしたねぇ」


 最初から、穴なんてなかったかのようだ。

 滑らかな床を見つめ、銭がおかしそうに唇を吊り上げる。


「これで、反射の能力は使えなくなったな」


 呟いた音夢(ねむ)が、許可を得るため天璃(あめり)に目配せした。

 銭を除く三組の生徒たちは、別棟から姿を消している。残っているのは、天璃たちの背後で寝言を漏らす千莉(せんり)と、心配そうに見守る兎々。喉の調子を確認する音夢と、覚醒が近づき唸る二組の生徒たち。


 そして、正面から見つめ合う銭と天璃だけだった。


「あたくしに勝てることが、そんなに嬉しいですか?」


「そりゃあな。さんざんバカにしてくれたし」


 無言の天璃に代わり、音夢がぶっきらぼうに答える。

 深く息を吸い込んだ音夢が、おもむろに口を開いた。


 聞いたことのない言語だが、どこの国のものだろうか。神秘的で優しい音色に、抗えない眠気が襲ってくる。


 目覚めかけていた二組の生徒たちが、再び眠りに落ちていく。ふらりと傾いた兎々を咄嗟に支えた天璃が、ズルズルと床に座り込んだ。

 瞳に驚きを宿した音夢が、歌い終える前に倒れ込む。


 ──御門(みかど)さん。この勝負、あたくしの勝ちですね。


 天璃たちの惨状を目にして、銭は言葉にならない声を、息だけで投げかけた。

 天璃との勝負は、心が踊るほど楽しかった。知略も観察眼も度胸も、間違いなく飛び抜けている。

 だからこれは、仕方のないことだ。


 天璃は凄かった。それでも、銭の方が一枚上手だった。

 敗因など、ただそれだけでしかないのだから。


 ──ああ本当に……楽しかった。


 遠のく意識の中、銭はうっすらと微笑みながら眠りについた。




 ◆ ◆ ◆ ◆




 宝探しが始まる前、銭はこんなことを考えていた。

 もしコインを奪えず、時間切れを狙われた際はどうするべきかと。


 清妃女(きよひめ)からの忠告により、天璃の知恵が回ることは既に分かっていた。おまけに、ペットである珠羅の能力も侮れない。


 この競技において、最も警戒すべき相手。それが──御門 天璃という人間だった。


 珠羅の能力らしき影が、コインを集めていたのを目にした銭は、宝探しという競技が正攻法では勝てないことを、改めて思い知ることになった。


 順当にゴールし、天璃たちとコインの枚数を競ったところで、おそらく上回ることはできないだろう。

 ならば、どうすればいいか。

 簡単だ。奪えばいい。


 どのチームよりも早くゴールに到達し、ゴールしようとしたチームからコインを奪い続ければ、決して負けることはなくなる。


 ただし、負けずとも、引き分けにすることは可能だった。

 この競技には時間制限がある。もし、時間内にどのチームもゴールできなければ、当然どのクラスにも得点は入らない。

 苦肉の策だが、いくら天璃でも追い詰められれば、負けよりも引き分けにしようと判断するはずだ。


 だから銭も、先手を打っておくことにした。



 三組には、印をつけた相手を、自身の脳内マップに表示できる能力者がいる。幸いにも下見があったことで、別棟内のマップは出来上がっていた。

 そのため、銭とその能力者がいるチームのメンバーは、宝探しが始まる前に印を描いてもらい、後でマップを頼りに合流することにしたのだ。


 迷路による分岐だが、マップ上では正解のみが表示されていたらしい。一度取り込んだマップは能力により左右されないため、迷路になっても問題はなかったという訳だ。

 おかげで、不測の事態でも迅速にゴールまで辿り着くことができた。


 守りに優れた能力者を残し、別のチームの一人に数枚のコインを手渡す。そして、先にゴールするよう指示を出しておいた。


 宝探しに、チーム全員でゴールしなければならない、なんてルールはなかった。仲間のうち一人でもゴールしておけば、チームの所有数としてカウントされるはずだ。


 万が一、銭たちがコインを奪えず、時間内にゴールできなかったとしても問題ない。ゴールしたのが一チームだけであれば、枚数に関わらず優勝することができるからだ。


 三組に得点が入るのであれば、銭は自分たちのチームが勝てなくても良いと思っていた。



 二組のチームとぶつかった際、反射の代償で一人離脱してしまったが、それでも銭たちが優勢なのは変わらなかった。

 天璃たちが相手でも、することは同じだ。コインを奪うか、ゴールされないように守り抜くか。


 兎々により反射の能力者を失ったのは痛かったが、真の策略とは、選択肢を数個潰されたくらいで、揺らぐようなものではない。


 二組の生徒の様子から、音夢の強制睡眠による効果はせいぜい数分程度だと予想がついた。強力だが、持続時間が短いのが代償といったところだろう。


 音夢は銭を眠らせ、コインを奪うつもりでいるようだが、十中八九その方法が叶うことはない。


 なぜなら、銭の能力は“道連れ”だからだ。


 一定範囲の者に、自分と同じ状態異常を付与する。つまり、銭が受けた能力と同じ効果を、周囲の者にも味わわせることができるのだ。


 逆手に取れば、自らを犠牲にすることで、相手を的確に排除できる能力でもある。

 音夢の強制睡眠はたった数分間。しかし今は、その数分さえあれば充分だった。


 制限時間は、残り五分を切っている。

 もし今眠ってしまえば、この中の誰一人として、ゴールすることはできなくなってしまうだろう。

 

 ここまで頭の回る天璃が、挟み撃ちに合うようなヘマをするとも思えない。だとすれば、ゴール付近に到達するチームは、天璃たちで最後だと考えるのが自然だ。


 全てが上手くいっていた。

 コインは奪えなかったが、結果的に三組が勝ったのだから、それで充分だ。



 催眠の効果が切れたのか、意識が浮上していく。

 起き上がった銭の視界に、兎々を起こす天璃の姿が映った。


 南口の扉から入ってきた百目鬼(どうめき)が、満足げに微笑む。

 そして、宝探しの終了を口にした。


 

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― 新着の感想 ―
天璃さんなら普通に起きてられそう
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