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ブラッドカーストファンタジア  作者: 十三番目
第二章 飼い主の実力

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第五十一滴 攻防戦


「おやまあ。予想通りでしたねぇ」


 ゴール付近には、拘束された二組の生徒たちと、その近くに立つ三組の生徒たちがいた。

 天璃(あめり)を見て糸目をしならせた(ぜに)は、レンズの小ぶりな丸眼鏡をかけている。


「そろそろ来ると思ってましたよ。御門(みかど)さん、有栖川(ありすがわ)さん。それと、どなたでしたっけ?」


萬屋(よろずや)さん……」


 怯えの滲む声で、兎々(とと)がぽつりと呟く。天璃たちとは一転して、見下すような態度で接してきた銭に、音夢(ねむ)は相変わらず嫌なやつだと言わんばかりに眉を顰めた。


「御門さんのことは、あたくしのペットからも聞いてましてねぇ。まるで策略の神のように、知恵が回ると言ってましたよ」


「買いかぶり過ぎだよ。そういえば、無事に戻ってきたんだね」


「おかげさまで」


 眼鏡を指していることに気づいた銭が、薄っぺらい笑みを浮かべる。


「チーム同士で集まったにしては、人数が足りないみたいだけど……残りはどこに行ったの?」


「ここに来る途中、仲間とはぐれたチームに出会ったので、一緒に行動してたんですよ。もしかすると、まだ何処かを彷徨っているのかもしれませんねぇ」


 拘束されたチームが四人組なのに対し、銭の傍には五人の生徒がいた。元の数を考えると、内二人は別のチームの生徒ということになる。


 二組の生徒たちは怪我こそないものの、ぐったりしていたり、気持ち悪そうに口元を押さえていたりと、何らかの能力により戦闘不能にさせられたようだった。


 ゴールである南口の扉は、銭たちを超えた先にある。どうあっても、戦わずして通ることはできないだろう。


「あまり時間もありませんし、そろそろ決着をつけましょうか。大人しく宝を差し出すということであれば、それでも構いませんがねぇ」

 

「誰があんたなんかに」


 上から目線の言葉が気に障ったのか、音夢が怒りのこもった声で吐き捨てた。


「そうですか。では、どうしましょうかねぇ」


 顎に手を当てた銭は、隣の生徒に何かを囁いている。眉間の皺をそのままに、音夢が天璃の方を振り向いた。


「試してみてもいいんだよな?」


「うん。ただ、今回は──」


 言葉を呑んだ天璃へ、音夢が心得ているとばかりに頷く。


「っこほん。あーあー」


 咳払いをした音夢が、すうっと息を吸い込む。次いで口から飛び出したのは、日本でもよく耳にする──子守歌だった。


「き、きらきら星……」


 思わず吹き出しかけた三組の生徒が、突然フラフラと崩れ落ちた。拘束されていた二組の生徒たちも、次々と眠りに落ちていく。


「仕方ないだろ。満遍なく音波を届けるためには、歌うのが一番手っ取り早いんだよ」


「あ、天璃ちゃん。麿(まろ)さんが……」


 歌い終えた音夢が、恥ずかしそうに視線を逸らす。何かを言いかけた天璃に、背後から焦った声がかけられた。

 通路に寝転がり爆睡する千莉(せんり)を、兎々が心配そうに揺すっている。訝しげな音夢を見て、銭の隣にいた生徒が得意顔で進み出てきた。


「残念でした。私は能力による攻撃を、“反射”することができるの。あなたが歌うたびに、お仲間が被害を受けることになるわよ」


「そっちのお仲間も、被害を受けてるみたいだけど?」


 銭を含む何人かに、能力が効いている様子はない。しかし、三組の生徒も眠っていることを考えると、完全に対処できる訳ではなさそうだ。


「しっ、仕方ないでしょ。反射の威力が強いほど、跳ね返る方向もランダムになっちゃうんだから……」


「なるほどね。あんたも代償持ちってわけか」


「代償持ち?」


 首を傾げる天璃に、銭が糸目をうっすらと開いた。


「使い手の思い通りにいかない能力は、その分強力になる法則があるんですよ。とは言っても、獲物特有なんですけどねぇ」


 代償を受ける代わりに、強い力を得る。先祖返りとは違い、人間にはペナルティーがあるということなのだろう。


 反射の能力は厄介だが、味方にも跳ね返りの影響が及ぶ以上、互いに無傷でとはいかない。むしろ、味方の被害の方が多くなる可能性さえあり得る。

 銭側としても、使わずに済むならその方がいいはずだ。


「どうやら、あたくしたちは似たもの同士のようですねぇ、御門さん。今こうしている間にも、頭では常に最適な一手を考えている」


 違いますかと問いかけた銭だが、声には確信が込められていた。


「ですが、だからこそ気づいたはずです。確実な勝利のためには、運という要素を減らしていくしかないと。次は誰が倒れるか分からない状況で、もう一度歌わせるなんてリスクを負うことはできませんよねぇ」


 天璃のことを語っているようで、銭自身のことを語っているようでもある。頭が切れる者同士、思考回路にも通じる部分があるのだろう。

 おそらく銭は、天璃の取りそうな手段を予測し、先に封じようとしている。


「萬屋さんのペットが姫浦(ひめうら)さんなら、私の奥の手についても知ってるはずだよね。こうして話してる間に、コインを奪われてるかも……とは考えたりしないの?」


「ご心配どうも。勿論、対策はしておりますよ」


 探り合うような視線が、天璃と銭の間を交錯する。余裕を崩さない銭だが、向こうから何かを仕掛けてくる様子はなかった。


 有効な手段があるなら、とっくに使っているはずだ。

 考えられるのは、銭たちの能力が守りに特化したものであること。または、千莉のように、とある条件下でしか発動しないものであること。


 相手を負傷させやすい能力のため、競技のルール上、あえて控えている可能性もあるかもしれない。

 とはいえ、今の天璃たちが何より優先すべきことは、反射の能力者を何とかすることだった。


「兎々ちゃん、お願いできる?」


 天璃の言葉に、兎々が胸元の手をギュッと握りしめた。

 この競技に勝つことは、天璃だけでなく、霊藻(たまも)のためにもなる。


 友達の力になりたい。大切な人の役に立ちたい。

 そんな思いを胸に、兎々は銭たちに向かって自身の能力を発動させた。


 

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