第四十九滴 神算鬼謀
「やはり、阿留多伎殿の人気は凄いでござるな」
「珠羅ちゃんは可愛いからね」
「かわいい……?」
どこか呆然とした顔の千莉が、しみじみと呟く。当然の如く返事をした天璃に、千莉は益々ぽかんとした顔になると、口の中で可愛いという言葉を反芻していた。
「あたしからすれば、御門さんも負けてないと思うけど」
音夢の言葉に、兎々が大きく頷いている。
思えば、天璃が兎々と知り合ったきっかけは、白うさぎのような外見を兎々が気に入ったからだった。
「拙者も、初めて御門殿を見た時は驚いたでござる」
「見た目だけなら、猛獣と勘違いされてもおかしくないしな」
先祖返りには、珍しい色合いを持つ者も多い。しかし、天璃のそれはアルビノという体質によるものだ。
細い指が、雪のような髪に触れる。天璃の様子に気づいた音夢は、「色もそうだけど──」と口にしながら、記憶を思い起こすように眼鏡の縁を押し上げた。
「強い猛獣ほど血が濃い影響で、外見も引っ張られるんだってさ。昔話に出てくる傾国の妖怪とか……あとは、神話に出てくる神様なんかが先祖にいると、とんでもなく綺麗な容姿になるって爺ちゃんが言ってた」
先祖返りの強さには、血の濃さも関係しているらしい。別棟の地下で目にした“ブラッドカースト”という文字が、じわりと脳裏を侵食してくる。
「そうは言っても、御門さんは雰囲気が猛獣って感じじゃなかったし、制服が獲物用だったからすぐに見分けはついたんだけどね」
「私って、そんなに弱そうに見える?」
「弱そうっていうか……儚いって感じ? ま、性格は儚いどころか、その真逆だけどな」
雪のように溶けやすそうな姿をしていても、内側には鋭利な牙を潜ませている。揶揄いをこめて笑った音夢に、天璃も小さく笑みを返した。
「お帰り、みっちゃん。どうだった?」
不意に、何かに気づいた様子の天璃が足を止めた。
廊下の陰からひょっこり腕を出したみっちゃんは、手にぎっちりとコインを握っている。
「ありがとう、みっちゃん。おかげで何とかなりそうだよ」
その場に屈んだ天璃が、嬉しそうに手を握った。照れくさそうに手のひらを掻いたみっちゃんは、ジェスチャーで何かを伝えようとしている。
「そっか。やっぱり、そうなるよね」
「なんか問題でもあったの?」
含みのある態度の天璃に、音夢が疑問を投げかける。立ち上がった天璃が、三人の方に視線を向けた。
「宝探しの開始前に、百目鬼先生が言っていたルールを覚えてる?」
「あー、なんだっけ。分かれ道のどっちかが正解で、どっちかが外れ。スタート地点は北口で、ゴールは反対の南口……ってことくらいかな」
「えっと、いつゴールするかは自由で……ゴール付近に、仕掛けはないって……」
さっぱり覚えていませんという顔の千莉をよそに、音夢と兎々が記憶を引っ張り出していく。兎々の話が終わったところで、天璃はそれだと言うように人差し指を立てた。
「時間内であれば、ゴールのタイミングは自由。しかも、ゴールの近くに仕掛けはされていない。違和感があったの。百目鬼先生は、どうしてわざわざそんなルールを説明したのかなって」
「言われてみれば……」
初めから、この競技に時間制限があることは分かっていた。ゴール付近の事情についても、あえて説明するようなことではなかったはずだ。
「この競技の勝利条件は、ゴールに到達したチームの中で、最もコインの所有数が多いこと。にも関わらず、別棟内にあるコインの総数は明かされていない」
段々と仕組みに気づき始めたのだろう。不安そうな兎々の隣では、険しい表情の音夢が眼鏡を弄っている。
「この競技で勝つためには、一つのチームにコインを集めるしかない。そして、二組や三組の中に同じような考えの人がいた場合、自ずとどこかのチームがコインを多く所持することになる」
「かと言って、どのチームが何枚コインを所持しているかも分からない状況で、安易にゴールすることはできない……ってわけか」
眼鏡から手を離した音夢が、眉間の皺を増やしていく。
「しかも、別棟内が迷路になっていることで、どこかで集まるという手段は取れなくなってしまった。コインの数を予測しようにも、それさえ難しい状況になってるはず」
もし他のクラスに、天璃と同じように頭の切れる者がいたとすれば、この状況に焦りを感じているだろう。
そして同時に、唯一の打開策に思い至ったはずだ。
「だから、百目鬼先生はこう言ったの。──ゴールの近くに、仕掛けはしていないって」
淡々と続けた天璃に、音夢がハッと息を呑む。
「まさか……」
「ゴール付近で待ち伏せして、後から来たチームのコインを奪う。この競技で確実に勝つためには、この方法しかない」




