第四十八滴 乙女心
先ほどの分岐点で左の道を進み直した天璃たちは、現在とある一室にいた。
どうやら、正解の道は上下を問わず繋がっているようだ。仕掛けこそなかったものの、ふと窓の外を覗いた天璃は、自分たちがいつの間にか二階にいることに気づいた。
宝であるコインを探しながら、これからどうするべきか頭を働かせる。
別棟内にあるコインの総数。他のチームの現在位置。残り時間とゴールしたかの有無。
初めは宝探しに奔走していた者たちも、そろそろ気づく頃だろう。たとえ宝を集め、順当に迷宮を抜けられようと、それだけで勝つことは不可能なのだと。
何故なら、この競技はクラス対抗戦なのだから──。
◆ ◆ ◇ ◇
「死ぬーーー! あっちに行ったら死ぬでござるーーー!」
「千莉、それブーメランだからな。てか、縁起でもないこと言うなよ」
癇癪を起こす千莉を、音夢が半目で睨む。あわあわした様子の兎々は、心配そうに千莉の方を窺っていた。
「多数決なんだから、仕方ないだろ。そろそろ諦めろ」
「ううう〜」
うめき声を漏らしながらも、決め事を守らなければという意思は残っていたのだろう。抵抗を止めた千莉は、天璃たちの後を萎びた大根のような顔でついてくる。
宝探しに迷路が追加されたのは驚いたが、結果的に良かったのかもしれない。千莉の能力があれば、他のチームよりも優位に立てる。
部屋で見つけたコインを制服のポケットにしまうと、天璃は千莉を探知機代わりに、正解の道だけを進んでいった。
何度目かの分岐を通り抜けた天璃たちは、ふと聞こえた声に足を止めた。
千莉の能力が発動して以降、天璃たちは最初の遅れを取り戻す勢いで進んでいた。しかし、それは同時に、別のチームに追いつく可能性があることを意味している。
前方の部屋から出てきた四人組は、どうやら同じ一組の生徒のようだった。天璃たちに気づくと、生徒たちは顔を見合わせ、小声で何かを相談している。
「なあ、どうする?」
衝突を予想してか、音夢が警戒を露わに囁いた。
天璃は生徒たちを観察しながら、相手の出方をじっと待っている。
「おーい、そちらの四人組ー。聞こえますかー?」
突然、相手チームの一人が、天璃たちに向けて手を振ってきた。
「こちらに敵意はありません。ここは穏便に話し合いませんかー?」
「うちらは何もしないから、能力とか使うの止めてよね」
棒読み気味に話す生徒の隣では、腕組みをした生徒が口をへの字に曲げている。
「いったい、どういうつもり?」
訳が分からず、不信感が募っていく。思わず前に出ようとした音夢を、天璃がそっと手で制した。
「この辺に、もう宝は残ってないわよ」
「自分の能力は、取り込んだ物質が近くにあるか探すことができるもんでしてー。この情報は確かですよー」
相手のチームが距離を詰めてきたことで、自然と向かい合う形になる。不機嫌そうな生徒は、腕組みを解くと、天璃の方へ拳を突き出してきた。
「これ。持っていって」
ぶっきらぼうに差し出された手には、何枚かのコインが握られている。
「いいの?」
「あんただって分かってるんでしょ。この競技は、クラスで協力し合わなきゃ勝てないって」
天璃の問いかけに、生徒の眉間の皺が増した。
早く受け取れとばかりに、拳が押しつけられる。
「どうして協力する気になったの?」
「どうだっていいでしょ。誰にだって、知られたくないことの一つや二つあるもんよ」
「自分らも、勝てるもんなら勝ちたいですしねー。一組はだんまりだなんのと馬鹿にされて、不愉快ではありましたしー」
不機嫌そうな生徒の隣で、棒読みの生徒が愚痴をこぼす。その後ろから、残りの二人が顔を覗かせた。
「私、本当は諦めてた。阿留多伎さんは学園の行事なんて興味がなさそうだったし、どうせ今回も勝てないんだろうなって……」
「分かるわ〜。いないだけで、かなりの損失だもんね」
大人しそうな生徒に、ギャルっぽい生徒が相槌を打つ。意外な組み合わせだが、案外仲は良さそうだ。
「でもさ、珠羅様って最強格って言われるくらい強いのに、他の猛獣ほど態度が冷たくないんだよね。それでいてあの美貌でしょ? ぶっちゃけ、ファンクラブ入ろうか悩んでた時期もあったり」
「あの容姿は、同じ女から見てもドキッとしますからなー」
「分かる。超メロい」
盛り上がる会話を尻目に、音夢が馬鹿らしいとばかりにため息をつく。千莉は「めろ……?」と呟きながら、兎々と一緒に首を傾げていた。
「とっ、とにかく! あんたのことは気に入らないけど、珠羅様が動いたのはあんたのためでもあるんだから、その……勝ちなさいよ!」
「やーい。ツンデレだー」
「うっさいわね!」
真っ赤になった生徒が、早く行けとでも言うように天璃たちを睨む。感謝を口にした天璃に、生徒はふんと鼻を鳴らした。
◆ ◇ ◇ ◇
【 おまけ 】
「……どうせ無理だって分かってても、もしかしたらって思っちゃうのは仕方ないじゃない。諦めたくても、そんな簡単に割り切れないのよ……!」
「まあまあ。今日の夜は、とことん付き合いまっせー」
「私たちがいるからね……」
「ジュースで乾杯しよ〜」




