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ブラッドカーストファンタジア  作者: 十三番目
第二章 飼い主の実力

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第四十七滴 知略縦横


「おい、千莉(せんり)


「おかしいでござるな……」


「それはこっちの台詞だよ」


 誰よりも衝撃を受けている千莉に、音夢(ねむ)が呆れを滲ませる。


「とりあえず、もう一度左側の通路を進んで、その次も左に進んでみようか」


 百目鬼(どうめき)は、正解があらかじめ決められていると話していた。つまり、右の道が外れなのであれば、左は間違いなく正解ということだ。


「だな。他のチームより遅れてるし、早く行こうぜ」


「うう……」


 落ち込んだ千莉を引きずりながら、音夢はさっさと通路の先へ進んでいく。

 顔を見合わせた天璃(あめり)兎々(とと)は、作戦が上手くいっていることを確認し、互いに小さく笑みをこぼした。




 ◆ ◆ ◇ ◇




 クラス対抗戦の本番前、天璃は作戦会議と称して兎々と音夢を呼び出していた。

 千莉の姿が見当たらず、兎々は不思議そうに辺りを見回している。


「言われた通り、千莉は撒いてきた。んで、その作戦とやらを聞けば、どうして千莉だけ抜きなのか納得できるってことだよな?」


「うん。ただ、その前に麿(まろ)さんの能力について、もう少し詳しく聞いてもいいかな?」


「あたしが知ってることなら」


 すんなり許諾した音夢に、天璃が話を続ける。


「麿さんの能力は、感情が昂るほど危険の多い選択肢に惹かれ、落ち着くことで助かるための選択肢を取れる能力……って言ってたよね」


「そーそー。心拍数も関係してるみたいだけど、ぶっちゃけそっちの方が分かりやすいよな」


 他人の鼓動がどうかなんて、いちいち気にしていられない。音夢いわく、千莉は感情が表に出やすいため、目に見える変化で判断した方が早いとのことだった。


「助かるための選択肢っていうのは、常に落ち着いてる状態では発動しないの?」


「しないね。感情が昂った後に鎮火させることで、現状打破の手段を思いつくって感じかな」


「つまり、救済措置ってことか」


 思案顔で目を伏せた天璃を、兎々も音夢も静かに見守っている。

 獲物同士の戦いでは、知略が物を言う。天璃が思考を働かせている間は、邪魔にならないよう口を噤んでいるのだろう。


「宝探しには、ゴール到達前であれば、他のチームのコインを奪うことができるルールも含まれてたよね。別棟は広いし、あまり鉢合わせることはないかもしれないけど、それでも出会わないにこしたことはない」


 相手チームの能力が不明な以上、危ない橋は渡らずに済んだ方がいいはず。独り言にも近い天璃の言葉に、音夢はどこか複雑な表情を浮かべた。


「理屈は分かるけど、それと千莉に何の関係があるわけ?」


「麿さんの能力があれば、他のチームとの接触を可能な限り避けつつ、安全にコインを運べるんじゃないかと思ったの」


 たとえば上の階に向かう階段と、同じ階を探索できる通路があったとして、どちらがより安全な道か、千莉の反応によって察することができる。


「でも──そのためには、麿さんの心拍数を上げておく必要がある」


「なるほどね。だんだん読めてきた」


 千莉の緊張状態を維持するためには、天璃の思惑を知られるわけにはいかない。そのため、兎々と音夢にだけ作戦を共有し、上手いこと場を切り抜けようという算段なのだろう。


「具体的にはどうすんの?」


「初めは、麿さんの行きたい方に進んでみようと思ってる。他のチームと遭遇したとしても、コインがなければ何かされる心配もないから」


 他者に怪我を負わせたチームは、その場で失格処分となってしまう。コインを持たないチームを襲ったところで、双方にとってデメリットしかないのだ。


「もしコインが集まっても、何も起こらなかったら?」


「その時はみっちゃんたちに頼んで、あえてハプニングを起こしてもらうつもり。コイン集めも協力してくれるみたいだし、多少のロスは取り戻せると思うよ」


 策を練る際には、事前に何通りかの案を考えておく必要がある。あらゆる可能性を模索し、周到に準備してこそ、撒いた(えさ)が真価を発揮できるのだ。


「麿さんの能力が発動した後は、麿さんが選んだ道以外を進むようにしよう。そうすれば、最もリスクの高い選択肢を潰すことができる」


 真剣な表情で耳を傾けていた音夢が、眼鏡のフレームを指で押し上げた。


「話は分かった。ただ、千莉は感情が昂ると、癇癪持ちの子供みたいになるんだ。別の道に進みたくても、駄々をこねて言うことを聞かないかも」


「それについてなんだけど……意見が割れた時のために、多数決を提案しようと思ってるの。先に方法を決めておけば、麿さんも納得するしかないんじゃないかな」


「そんで、あたしと有栖川(ありすがわ)さんが票を揃えればいいってわけね。公平なようで実は八百長。しかも、初めから千莉に勝ち目はない。ほんと、どうやったらそんなやり方を思いつくわけ?」


 本来であれば、四人の多数決では二対二も起こり得る。しかし、今回の多数決で票が割れることは絶対にないと言えよう。

 多数決とは名ばかり。競技が始まった瞬間から、進むべき道はすでに示されているのだ。


「麿さんを落ち着かせて、何とかする方法も考えてはみたけど、持続性がないのが難点だったの。それに、救済措置はそもそもマイナスの状態を回復させるものだから、リスクは自然と高くなってしまう」


 天璃の視線が、不安げに瞳を揺らす兎々へと向けられた。霊藻(たまも)から託されていることもあり、天璃は兎々が無事に競技を終えられることを優先的に考えている。


 何より、面倒見が良くカラリとした性格の霊藻と、穏やかで心優しい兎々のことを、天璃は少なからず大切に思い始めていた。


 千莉には悪いと思いつつも、兎々の安全を天秤にかけた結果、呆気ないほど一方に傾いてしまったという訳だ。


「なんか今、御門さんを誘った過去の自分を褒め称えたい気分だわ……。ま、千莉のことは気にしなくていいよ。単純だから、どうせ寝たら忘れてるし。それにさ、賞品を手に入れるためには、少しくらい我慢も必要だろ?」


 留年のリスクがある音夢と千莉にとって、クラス対抗戦の賞品は命綱にも等しい。もし卒業できなければ、音夢たちは一年余分に学園で過ごすことになってしまう。

 命の危機に比べれば、天璃の提案など安いものだった。


「あたしが御門(みかど)さんたちと組んだのは、勝ちに行くためだからね。ってことで、これからも遠慮なく指示してよ」


 強い意志のこもった瞳が、天璃を映す。


「勝たせてくれるんでしょ? リーダー」


 期待と揶揄いの狭間で笑った音夢を、天璃が真っ直ぐ見返した。


「頭脳担当として、最善を尽くすよ」


「あの時の言葉、まだ覚えてたんだ……」


 

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