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ブラッドカーストファンタジア  作者: 十三番目
第二章 飼い主の実力

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第四十五滴 嫌いの上


「今年の一組は、猛威を振るっていますね」


阿留多伎(あるたき)さんが動いたことで、他の生徒たちにも良い影響が出ているようです」


 クラス対抗戦において、最高戦力が手を抜くのは致命的だ。

 一組の生徒からしてみれば、去年は不動だった珠羅(しゅら)が協力的になったことで、勝利への兆しが見えたのだろう。始まった時とは、明らかに顔色が変わっている。


 教師用のテントから見守っていた百目鬼(どうめき)が、近くに腰掛けていた結解(ゆげ)に賛辞を呈した。薄く微笑んだ結解は、一位でゴールした珠羅と、その飼い主である天璃(あめり)を視界に収めている。


「本当に、何が起こるか分からないものね」


 孤高の存在だった猛獣に、飼い主ができた。それだけでも驚くべきことなのに──。

 明るい声のトーン。愛想を振りまくような笑みでありながら、仮面をつけたような笑顔でもある。


 憧れと畏怖を一身に受けるも、決して誰にも心を許さず、いつも飄々としていて掴みどころがない性格の持ち主。

 結解から見た珠羅は、そんな生徒だった。


 人ならざる者も、恋をしたら変わるのだろうか。

 磁石のプラスとマイナスのように、正反対でありながら引かれ合わずにはいられない。


 何かを囁き合った天璃と珠羅が、同時に吹き出す。

 残酷な学園も、今この瞬間は青く輝いていた。


 眩しげに目を逸らした結解は、簡易テーブルに置かれたコップを手に取ると、ゆったりと麦茶を口に運んだ。




 ◆ ◇ ◇ ◇




「あらぁ、女狐はんやないの」


 観戦用のテントに、雅な声が響いた。


「蛇女が何のようや」


「そないに目くじら立てんといてな。あてはただ、物を返してもらいに来ただけどす」


 元々目つきの悪い霊藻(たまも)だが、清妃女(きよひめ)に対しては比にならないほどの鋭さを滲ませている。緊張した様子の兎々(とと)が、反射的に身体を縮こませた。


「あてには女狐はんのような繊細さがあらへんさかい、気分を損ねてしもたやろか」


「ほんま、建前が上手いやっちゃな。たまには腹を割らんと、ドブ川みたいになんで」


「尾の分かれた女狐はんと違い、あては一途なんどす」


 飼い主以外に友人のいる霊藻とは異なり、清妃女には(ぜに)だけだ。遠回しな皮肉だが、霊藻にはしっかりと伝わったらしい。


「そら蛇女の性根が腐っとるからや。名前負けしてんで」


「さすが、虎の威を借る狐は言うことちゃいますなぁ」


「損得勘定しかできへん蛇女に言われたないわ」


 口調は荒くないものの、内容は研ぎたての刃のように鋭利だ。水と油のように反発し合う二人は、一言で纏めるなら“犬猿の仲”だった。


「もう取りに来たの? 早いね〜」


姫浦(ひめうら)さん、これ」


 競技を終え戻ってきた珠羅が、揶揄い混じりの笑みを浮かべる。天璃から眼鏡を受け取った清妃女は、傷がないことを確認すると、くるりと踵を返した。


「ほな、あてはこれで」


 優雅に去っていく清妃女を、霊藻が嫌悪の表情で見ている。天璃が転入したばかりの頃は、珠羅とも何度か火花を散らしていたが、ここまで露骨な態度を取ることはなかった。


「姫浦さんのこと、嫌いなの?」


「嫌いなんてもんやない。生理的に好かんねん」


「そっか。それはもう……どうにもならないね」


 嫌いと生理的に無理の間には、越えられない壁が存在する。嫌いにはまだ復活する余地が残っているが、生理的までいくともはや皆無だ。


 空気を読んだ天璃が口を閉じたことで、霊藻の眉間の皺がほぐれていく。張り詰めた糸が緩んだことで、周りの喧騒が耳に届き始めた。


「そっ、そろそろ時間だから、行かないと……」


「そうだね。行こっか」


 兎々に声をかけられ、席を立つ。


「気ぃつけや」


「頑張ってね〜」


 心配そうな霊藻と笑顔の珠羅に見送られ、天璃は兎々と共に、次の競技が行われる別棟へと向かった。


 

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