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ブラッドカーストファンタジア  作者: 十三番目
第二章 飼い主の実力

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第四十四滴 淡き桃花


 落ち着いた様子の天璃(あめり)が、内心ではどんなことを考えているのか。清妃女(きよひめ)の値踏みするような視線を遮るように、珠羅(しゅら)が天璃を抱え直した。


姫浦(ひめうら)さんは、本当に私に興味がありますか?」


「どないな意味でっしゃろ」


 柔和な表情をしていても、目は嘘をつかない。桃花を思わせる瞳が、清妃女のそれとかち合った。


「私を餌に珠羅ちゃんを焚き付けて、そこにいる二人を纏めて排除しようっていう算段なのかなと」


「えっ、あんたそんなこと考えてたの?」


「……腹黒」 


 二組の猛獣たちが、ドン引きした顔で清妃女を見る。口元を手で隠した清妃女は、心外だと言うように眉を下げた。


「嫌やわぁ。あてはただ、真っ白なおべべがかいらしい飼い主はんや思うて聞いてみただけどす。せやけど、少しみくびってもうてたみたいやわ」


「見る目がないんだね〜」


 軽い口調と、温度のない笑顔。一触即発の空気を感じ、二組の猛獣たちがじりじりと後退りを始めた。


「どっちかに加勢するのもありだと思ってたけど、今のうちに進むのもありな気がしてきた……」


「……漁夫の利」


 小声で相談していた猛獣たちが、結論は出たとばかりに頷き合う。そのまま踵を返した猛獣たちだったが、突然一方が前のめりになると、勢いよくその場に転倒した。


「おい、大丈夫か!?」


「……痛い」


 顔面から倒れたため、鼻のてっぺんが赤くなっている。


「ダメだよ〜。勝手に逃げようとしちゃ」


 足首を掴んでいた黒い手が、痛みに悶える猛獣の影へと沈んだ。離脱することは不可能だと察した猛獣たちから、緊迫した空気が漂い出す。


「酷いことしはるわぁ。ただの対抗戦で、えらい手荒なことしはるんやねぇ」


「これでも平和に済ませた方なんだけどね〜。現に、君とは戦わずに決着がついたわけだし」


 不意に木陰から現れた黒い手が、珠羅に何かを手渡した。

 キラリと光る物体を目にした瞬間、清妃女がハッとした顔で腰の辺りに触れる。


「いつの間に……」


「借り物がなければ失格。だったら、これ以上やる意味もないでしょ?」


 清妃女が持っていた眼鏡は、三組の生徒である萬屋(よろずや)のものだ。天璃たちに接触し、自身を飼い主だと話していた糸目の少女は、特徴的な丸眼鏡をかけていた。

 そのため、会って早々に眼鏡が借り物だと気づいた天璃は、隙をついて奪うよう珠羅に頼んでいたのだ。


「奪い返そうとしても無駄だよ〜」


 恐らく珠羅は、清妃女が天璃に触れる機会さえ与えないだろう。射抜くような強さで珠羅を睨んでいた清妃女だが、眼鏡をハンカチで包んだ天璃を見て、ふっと空気を緩めていく。


「そらあての飼い主に借りたもんやさかい、壊さへんでくれたら十分どす」


「そ。じゃあ私たちは行くから、ゴールした後にでも取りにきてよ」


「いやいやいや。ちょーっと待て。あんた、あたしたちもいること忘れてない?」


 息をついた清妃女が、負けを認めるように一歩退いた。先に進もうとした珠羅は、行く手を阻むように立ち塞がった二組の猛獣たちを、どこかつまらなさそうに見ている。


「えっ、無視……?」


「……相手にされてないだけ」


「やめてよ。悲しくなるじゃん」


 分かっていても、言葉にされるのはつらい。複雑そうに呟いた猛獣の肩を、もう一方が励ますように叩いた。


「正直、手加減するのも疲れてきたんだよね〜。弱いやつは、引き際が分からないみたいだし。間違えて腕とか千切っちゃうかもだけど、わざとじゃないし仕方ないよね?」


 本能を刺激する恐怖に、猛獣たちが身震いする。

 後悔とプライドが脳内でせめぎ合う中、ふと背後から気怠げな声が響いた。


「もしかして、全員揃ってんの?」


風殿(ふうでん)さん」


 コースのど真ん中を塞いでいる猛獣たちを目にして、荒牙(こうが)が訝しげな表情で足を止める。珠羅に抱えられた天璃を見つめ、僅かに驚いた様子の荒牙が、二組の猛獣たちに視線を移した。


「あー、何となく分かった。引き受けるから、先行けば?」


「どういう風の吹き回し?」


「別に。クラス対抗戦なんだし、おかしなことでもねえだろ」


 早く行けと親指を傾ける荒牙に、珠羅がゆるりと目を細めた。


「ふーん。じゃあ、後のことはよろしくね〜」


 闇よりも深い黒が、荒牙に向けられる。

 しかし、パッと電球が灯るように一瞬で表情を変えた珠羅は、軽やかな身のこなしで猛獣たちの横を擦り抜けていった。


 あっという間に去っていった珠羅に驚くも、荒牙に背を見せるのは危険だと判断した猛獣たちは、後を追うこともできず歯噛みしている。


 ズボンのポケットに両手を差し込んだ荒牙は、自身の行動を振り返り、らしくないなと内心で呟いていた。

 純白のベールから覗く鮮やかな桃花が、脳裏に焼き付いて離れない。


 気怠げな表情のまま、荒牙はまあいいかと考えることを放棄した。


 

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