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ブラッドカーストファンタジア  作者: 十三番目
第二章 飼い主の実力

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第四十一滴 借り物


 結局、骨にひびが入っていたはずの足首は、一日と経たずに完治してしまった。


 翌朝いつも通り登校した天璃(あめり)を見て、兎々(とと)の表情がパッと色付く。霊藻(たまも)は感心した様子で、「猛獣なみの治癒力やな」と笑っていた。


 音夢(ねむ)千莉(せんり)は事情を把握しきれていなかったようで、席に着いた天璃をもの言いたげな目で見つめていたが──。


 とにもかくにも、クラス対抗戦当日。

 天璃は兎々と共に、学園が用意したテントの下で、猛獣たちの競技を観戦していた。



「先ほどのタイヤ引き、凄かったでござるな」


結解(ゆげ)先生の結界がなかったら、何人かあの世逝きだっただろ」


 別のテントから避難してきた音夢が、感嘆する千莉にため息混じりの返事をしている。


 獲物の競技が校舎などを使用して行われるのに対し、猛獣の競技は校舎から離れた場所で行われることが多い。校舎裏と森の間には平地が広がっており、本土で最も大きいドームほどの面積があった。


 応援席として用意された場所からは、競技の光景がよく見える。途中、席に向かってタイヤが飛んでくるも、結解の張った結界によって弾かれていた。

 猛獣用に作られたタイヤは特別製だ。もし当たっていれば、見るも無惨な姿になっていただろう。


「ほんま、馬鹿力が多てかなわんわ」


 競技を終え戻ってきた霊藻が、兎々の隣に腰掛ける。

 音夢は霊藻に気づくと、千莉を連れてそそくさとその場を離れていった。


「一位通過おめでとう」


「おー、おおきに。化かすのは得意やからな。他の組のモンにも、手伝ぉてもろたわ」


 幻術によって敵と味方の区別を分からなくした霊藻は、労せずして数多くのタイヤを手に入れていた。純粋な力勝負では分が悪いと判断し、早々に能力での戦法に切り替えたのだろう。


「次は障害物競走やったか。阿留多伎(あるたき)も今年はやる気みたいやし、お手並み拝見っちゅうわけやな」


 兎々から飲み物を受け取った霊藻が、ふわりと目元を和らげる。感謝を口にした霊藻の視線が、ふと天璃の隣に向けられた。


 障害物競走は平地から始まり森の中を経由、決められたルートを一周し、再びスタート地点まで戻ってくるという流れになっている。

 毎年少しずつルールが変更されるものの、大まかな流れは同じらしい。それぞれのクラスから二人ずつ──計六人で行われ、最も早くゴールした猛獣のクラスに得点が加算される。


 順位ごとに得点を配分するのではなく、一位にのみ与えるというやり方は、いかにも弱肉強食に染まった学園らしい方法だ。


 どうやら、一組からは珠羅(しゅら)荒牙(こうが)が参加するらしい。天璃と目の合った珠羅が、にこにこと笑顔で手を振ってきた。


「今回の追加ルールは、借り物です。こちらのボックスからカードを引き、お題に合うものを借りてきてください。ゴールまでに壊したり無くしたりした場合は、順位の対象外となりますから注意してくださいね」


 説明を終えた百目鬼(どうめき)が、参加者に対してボックスを差し出す。

 お題を読んだ猛獣たちが、探るように辺りを見回した。


「それでは、始めてください」


 百目鬼の声を合図に、猛獣たちが散らばっていく。

 お題に合うものを借りるため、目当ての生徒へ交渉しに行ったのだろう。珠羅は特に急いだ様子もなく、真っ直ぐ天璃の元へと向かってくる。


「天璃ちゃん、借りにきたよ〜」


 何かを貸そうにも、天璃が持っているのは日傘だけだ。膝の上に置いていた日傘を手渡そうとするも、珠羅が受け取る気配はない。


「私が借りにきたのは、天璃ちゃん自身だよ?」


「……え?」


 唐突な浮遊感に、目を瞬く。

 手から抜け落ちていく日傘が、スローモーションのように映った。


 半ば拉致のように連れていかれる天璃を、兎々があわあわと見ている。呆れと愉快さをない混ぜにした表情で、霊藻が「きばりや」と唇を動かした。




 ◆ ◆ ◇ ◇




 片手で天璃を抱えたまま、珠羅は森の中を軽やかに駆けていく。

 先祖返りは人間とは違う。どんなに人と似ていても、彼らは人外なのだ。そんな事実を、天璃は改めて突きつけられたような気分になった。


「珠羅ちゃんのお題って、どんなのだったの?」


「んー? ゴールしたら教えてあげる〜」


「それって、一番も条件に含まれてる?」


「もちろん」


 木々の隙間から差し込む光が、純白の髪に反射する。

 自分とは正反対の色を見下ろしていた天璃は、さらさらと揺れる髪に頬を擦り寄せてみた。


「可愛いことしてるね〜」


 珠羅に触れていると落ち着くのに、心の奥深くではさざ波が立つような、不思議な感覚になる。


「珠羅ちゃんの方が可愛いよ」


 自然とこぼれた言葉が、偽りのない音を紡ぐ。黒々とした瞳がぱちりと天璃を捉え、蕩けるように細まった。


「もうちょっと、こうしてたかったんだけどな〜」


 残念そうに呟いた珠羅が、天璃を横向きに抱え直す。

 瞬間、降ってきた大岩が地響きを立てた。


 

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