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ブラッドカーストファンタジア  作者: 十三番目
第一章 カーストの最下層

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第四滴 希望の光


 頻繁に変わっていくルームメイトに、薄井の心は段々とすり減っていった。

 それでも、天璃(あめり)と出会った時、薄井はかすかに希望を抱いたのだ。


 ──同じ能力者ならと。


 しかし天璃は、()()()()()()()()

 数日も経てば、目の前の少女は亡骸さえも残さず消えてしまうだろう。そんな絶望にも似た諦めが、薄井の心をぽっきりと折っていった。


「……つまり、私はその“生贄”に当たる人間で、これまで通りなら今回の狩りで死ぬってことだよね」


 事実を確認する声に、薄井は俯いたまま小さく頷いた。

 泣かれても、怒られても、どうしてだと責められても、薄井は全てを受け入れるつもりだった。


 こんな状況だ。おかしくなるのも無理はない。

 それでも、()()()のある能力者(薄井たち)とは違い、生贄(天璃)には何のチャンスも与えられていない。

 だからこれは、薄井の同情心であり、自己満足の行為でもあった。


「それなら尚更、どうして助けてくれたの? 私と関われば、薄井さんの危険だって増すはずなのに……」


 こんな状況で。こんな話を聞いた後で。

 天璃はまだ、薄井のことを気にかけている。


 反射的に顔を上げた薄井の目に、曇りひとつない純白が映った。

 花嫁のベールのように、ふわりとまつ毛が揺れる。鮮やかな桃の花が彩る様は、いつか見た結婚式のように美しくて──。


 薄井の中で詰まっていた何かが、ストンと落ちる感覚がした。


 誰が死のうと、自分の命に比べたら安いものだった。

 たとえ()()()()が目の前で喰われていようと、薄井は存在感を消して、狩りが終わるまでひたすら耐え忍んできた。


 それでもあの時──天璃の姿を見かけた瞬間、薄井はいてもたってもいられなくなってしまったのだ。


 生贄だからと勝手に落胆し、天璃のことも弱い人間だと決めつけていた。

 けれど、弱肉強食の学園で、転入してきたばかりの最下層が、カーストの上位に反撃してみせた光景は、薄井にとてつもない衝撃を与えた。


 おそらく、あの時には既に──天璃は薄井にとっての希望の光になっていたのだろう。


「……わたし、西園寺(さいおんじ)さんが嫌いなの。だから……御門さんが一泡吹かせてくれて、本当にスカッとした……」


 きっと天璃は、この狩りを生き抜く最初の生贄になる。


「助けたのは……そのお礼」


 学園のカーストは、これから大きく変わっていくだろう。

 ──目の前にいる、真っ白な一人の少女によって。


 芽生えた予感を包み込むように、薄井は自身の胸元をぎゅっと握りしめた。




 ◆ ◆ ◆ ◇




 狩りが始まってから、だいぶ時間が経過していた。

 猛獣らしき気配が近くを通った際はひやっとしたが、薄井の能力のおかげで見つかることはなかった。


「薄井さんの能力って、会話も大丈夫なの?」


「……存在自体を薄くするから……生物が持つ声や、においとかも対象になるの……」


「それ、隠れるって点では、かなり強い能力だと思うよ」


 感心する天璃に、薄井が頬を染め、気まずそうに視線を逸らした。


「……狩りには、いくつかルールがあるの……。猛獣が捕まえていいのは、一回の狩りにつき一体まで……。獲物を手に入れたら……その猛獣は、狩りから離脱しないといけない……」


 森が静けさを取り戻したのは、猛獣の数が減ったからのようだ。

 懸命に説明する薄井の声に耳を傾けながら、天璃は辺りをくるりと見回した。


「……獲物が生き延びるためには、とにかく逃げるしかない……。でも、例外もあるの……」


 たとえ生贄であろうと、獲物という括りに含まれている以上、使える制度は何ら変わらない。

 知識を与えられず、生き残った者がいないためあまり知られていないが、生贄にも抜け道を手にする方法はあった。


「……それは、猛獣に──」


「ああ、なんだ。ここに居たのか」


 間一髪のところで、天璃が薄井の手を引いた。

 二人が座っていた場所には、地面をごっそり抉るほどの爪痕が残っている。


「もう一人いたんだな」

 

「なかなか見つからないと思ったら、そーいうわけ。雑魚同士お似合いじゃない」


「……西園寺さん……」


 青白い顔の薄井が、震える唇で呟く。


「で、どうすんだ魅与。二人は無理だぞ」


「はあ? そんなの、こっちに決まってんでしょ!」


 当然だと言わんばかりに、魅与が天璃を指差した。


 

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