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ブラッドカーストファンタジア  作者: 十三番目
第二章 飼い主の実力

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第三十六滴 能力


 嘲りのこもった笑みと、見下すような視線。糸目なこともあり、いまいち感情が読み取りにくい。

 悔しそうに顔を歪める生徒たちを見て、糸目の少女は楽しげに言葉を続けた。


「初めましての方も増えましたねぇ。一組と二組は、入れ替わりがとっても激しいようで」


「……そっちだって、けっこう入れ替わってるじゃない」


「あらら〜? 負け犬の遠吠えは見苦しいですよぉ」


 二組の生徒が言い返すも、少女は歯牙にもかけずケラケラと笑っている。

 ふと、細い目が何かを探すように辺りを見回した。途中で動きを止めた少女は、天璃(あめり)たちの方に向けて真っ直ぐ歩いてくる。


「おやまあ。お久しぶりですね、有栖川(ありすがわ)さん」


萬屋(よろずや)、さん……」


「水臭いですねぇ。飼い主同士、もっと仲良くしましょうよ。ねぇ、御門(みかど)さん?」


 怯える兎々(とと)を一瞥すると、萬屋は同意を求めるように天璃へ声をかけてきた。


「私のこと、知ってるんですね」


「そりゃあもう。御門さんは有名ですから」


 初めて生き残った生贄。あまつさえ、最強と名高い猛獣をペットにしたとくれば、注目されるのは当然だろう。

 飼い主同士と言うだけあり、萬屋が天璃と兎々に対して失礼な態度を取ることはなかった。とはいえ、腹の底では何を考えているのか分からない。


「……偉そうに。学年対抗では、最下位だったくせに……」


 様子を見ていた二組の生徒が、萬屋を睨み呟きをこぼす。


「いやですねぇ。そんなんだから、勝てないんですよ」


「なっ!?」


 哀れみを滲ませ、萬屋が煽るように笑った。


「一組はだんまり。二組は吠えるだけ。今年の対抗戦も、間違いなく三組の勝ちですねぇ」


 強気な発言に、騒めきが広がる。

 余裕を崩さない三組の生徒たちに対して、他の生徒たちは様々な感情を露わにしていた。


「むかつく……!」


「今年は絶対、二組が勝つわよ!」


 団結し始めた二組を前に、音夢(ねむ)がずれた眼鏡を指で押し上げる。


「あーあ。余計なことしやがって」


 やる気に火のついた生徒たちを見ながら、音夢が面倒そうに息をついた。直後、辺りに百目鬼(どうめき)の声が響く。


「さあさ、予行練習を始めますよ。以前の集まりで一通り説明していますから、今回は簡単なルールだけお伝えいたします」


 静かになった生徒たちに微笑むと、百目鬼は穏やかな声で話を続けた。


「学園の別棟を使い、宝探しを行います。各所に隠してあるコインを見つけ、集めてください。制限時間以内にゴールまで到達したチームの中で、最もコインの数が多かったチームを優勝といたします」


 クラス対抗戦は、それぞれの種目に得点が割り振られている。得点は各種目で勝利した者が属するクラスに与えられ、最終的な結果は総合点により決まる仕組みだ。


「能力の使用は自由。ゴール到達前であれば、他のチームのコインを奪うことも可能です。ただしその際、相手に怪我を負わせるのはルール違反になりますから注意してください」


 獲物側の種目は、猛獣側とは違い安全面が考慮されている。打撲や擦り傷などの軽度なものを除き、他者に怪我を負わせたチームはその場で失格処分となってしまう。


「当日は特殊な仕掛けも施されますが、本日は予行練習ですから、そういったものはありません。下見とでも思って、気楽に行ってください。──では、始めましょうか」


 百目鬼の合図で、生徒たちが別棟の中に入っていく。


「今年は宝探しか」


「去年は違ったの?」


 音夢の独り言に、天璃が反応を示した。毎年少しずつ変わるのだと話す音夢の隣で、千莉(せんり)が記憶を思い起こすように上を向いた。


「たしか前回は、ドッチボールだったでござるよ」


「そーそー。以前は猛獣側の競技だったけど、校舎が破壊されるわ、校長室にボールが突っ込むわで、去年から獲物側の競技に変更されたんだって」


 ただのボールで、そこまで大惨事が起こるものだろうか。そう考えかけた天璃だが、猛獣ならあり得るかとすぐに納得し直した。


「にしても、宝探しか」


「拙者や音夢殿の能力では、あまりお役に立てないでござるな」


「だよなぁ。有栖川さんはどう?」


 音夢に問いかけられ、兎々がふるふると首を横に振った。


「ってことは、やっぱ……」


 全員の視線が、天璃へと集中する。

 別棟の造りを見ていた天璃は、期待のこもった眼差しに小さく苦笑した。


「とりあえず、当日のために幾つか作戦を立てておこうか。それと、みんなの能力について聞いておいてもいいかな? 能力の使用が許可されている以上、対策とかも必要になると思うから」


「それもそうだな」


 もっともな理由に同意した音夢が、おもむろに口を開く。


「あたしの能力は、音波による強制睡眠。声が届く範囲の相手を、強制的に眠らせることができる」


「それって、耳を塞いでても効いたりするの?」


「声が届きさえすれば、聞こえてるかどうかは関係ないよ。ただ、あたしの能力は短時間しか効かない。せいぜい、ちょっとした足止めができるくらいかな」


 廊下と室内を行き来しながら、四人でコインを探す。音夢が話を終えたことで、千莉が次は自分の番かと声を上げた。


「拙者の能力は、心拍数によって助かる能力でござる」


 漠然とした説明に、天璃と兎々が揃って小首を傾げる。


「千莉は感情が昂るほど、危険が多い選択肢に惹かれるんだ。けど、落ち着くことで、助かるための選択肢を取れる能力……って言えばいいのかな」


 要するに、回避型の能力だ。慌てるほど選択肢を間違える代わりに、冷静な間は安全な選択肢を取れる。


「吊り橋効果みたいだね」


 心拍数の上昇を恋と勘違いするも、実際は恐怖という感情がすり替わっただけ。真実を見失わないためには、常に自らを制御しておく必要がある。


「つり……?」


「吊り橋効果な」


 天璃の言葉に、千莉が目を瞬かせた。

 よく分かっていない千莉を、音夢が呆れた顔で見ている。


「えっと、わたしは──」


「きゃー!」


 言いかけた兎々の声を遮るほどの音量で、突然誰かの悲鳴が響き渡った。


 

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