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ブラッドカーストファンタジア  作者: 十三番目
第二章 飼い主の実力

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第二十五滴 一石二鳥


 違和感に気づいた珠羅(しゅら)兎々(とと)とは違い、天璃(あめり)には基本的な知識が足りない。

 理解が及ばないであろう天璃のため、霊藻(たまも)が「前提から話そか」と続けた。


「能力者ってだけなら、血筋と関係あらへんとこに生まれることもあんで。けどな、それは稀な話や。同じ世代に三人も生まれるんは、そうゆう家にとっても珍しい話やねん」


「能力者も先祖返りも、出所は同じなんだよね〜。先祖に人外がいて、たまに能力者、ごく稀に先祖返りが生まれる。要するに、確率の問題ってこと」


 天璃の髪をいじり終えた珠羅が、机にあった花を耳元に差し込んだ。

 出来栄えに満足したのか、珠羅は肩肘をつくと、天璃の方をじっと見つめている。


「不自然な場所には、なんらかの思惑が絡んどるもんや。千丈の堤も、蟻の一穴より崩れることはあるからな。芽を摘むなら、早い方がええと思わんか?」


 おそらく霊藻は、次の狩りでくくりを消すつもりなのだろう。兎々のためなら自ら率先して動き、幾重にも予防線を張り巡らせておくような霊藻が、不安要素を放置しておくとも思えない。


「そんなに気になるなら、本人に聞いてみればいいのに〜」


「聞いたところで、正直に答えるとは限らへんやろ」


 視線を流した珠羅が、霊藻の言葉ににこりと笑う。


「じゃあさ、口を割らせるのも、その後の処分も──私が引き受けてあげようか?」


「えらい親切やな。自分、欲しいモンでもあるんか?」


 見返りを期待してか、それとも他に目的があるのか。

 探るような霊藻の目が、珠羅の方へと向けられた。


「職員室に呼び出されて、たまには獲物を狩るようにって言われちゃったんだよね〜。話を聞くついでに殺しておけば、一石二鳥でしょ」


「そら獲物も狩らんとサボっとったら、注意もされるやろ」


 呆れ半分といった様子で息をつくと、霊藻は「ほな、阿留多伎(あるたき)に任せるわ」と口にした。


 窓から吹き込む風に、移りゆく季節を感じる。

 次の狩りがいつ始まるとも知れない日々の中で、天璃は目の前の光景を、穏やかな気持ちで眺めていた。




 ◆ ◆ ◇ ◇




 授業を終え席を立った天璃は、突き刺さる視線を辿るように後ろを振り返った。

 相変わらず鋭い眼差しで天璃のことを睨んでいたくくりだが、目が合ったことで動揺をあらわにしている。


 どちらも視線を逸らさないまま佇んでいると、突如──教室のスピーカーから放送を知らせるメロディーが鳴った。


『本日の二十時より、狩りを始めます。獲物の皆さんは、所定の時刻になったら逃げてください』


 しんとした教室が、一瞬で騒がしくなっていく。


「夜にも狩りがあるんだね」


「五回に一回くらいはあるよ〜」


 背後から抱え込まれ、自然と珠羅を見上げる。

 どこか深刻そうな雰囲気の霊藻が、眉間に皺を寄せた。


「よりにもよって、今回か。タイミングが悪いとしか言いようがないで」


「狩りが夜だと、何かあるの?」

 

「日中にはいないやつらが、参加してくるくらいかな〜」


「それがいっちゃん問題やねん。血気盛んなやつらや。目当ての獲物がおる以上、猛獣同士がぶつかる可能性も出てくるかもしれん」


 目当ての獲物という言葉に、視線を前に向けた天璃だが、既にくくりの姿はなかった。


「ぶつかるって……猛獣同士が戦うって意味だよね?」


「せや。獲物が被った際は、半殺しまで許可されとるからな」


 天璃の瞳が、僅かに揺れる。

 腕の中で身じろいだ天璃の頭に、珠羅が頬を擦り付けた。


「大丈夫だよ〜。あの程度に負けたりしないから」


 珠羅が負けるとは思っていない。けれど、珠羅には天璃という守るべき存在(飼い主)がいる。

 ハンデを負った状態で戦えば、いくら珠羅でも無傷とはいかないかもしれない。

 それが、天璃には少しだけ不安だったのだ。


「言ったでしょ。天璃ちゃんが望むなら──どんな相手の喉笛も噛みちぎってあげるって」


 すっぽりと包まれる安心感に、天璃が肩の力を抜いた。


 先祖返り。幻想種(ファンタジア)。最強の猛獣。

 珠羅がいったい、どれほどの強さを秘めているのか。


 天璃はその日、珠羅という存在の恐ろしさを──本当の意味で知ることとなった。




 ◆ ◇ ◆ ◇




【 あとがき 】


 サポーター(カクヨム)がいてくださるにも関わらず、何もできないままかれこれ八ヶ月ほどが過ぎました。

 無償で送られてくるギフトに申し訳なくなったので、久しぶりに限定ノートを載せておきます。(ギフト自体はとても嬉しいです)


 ちょっとした書き下ろしSSみたいな感じですが、時系列未来のラブラブ設定にしておきました。

 本編ではまだくっついてもいない二人ですが、限定ノートならいけるはず。


 内容は、【 お化け屋敷デートをする天璃と珠羅 】です。


 読んでくださる方々も、サポーターの方々も、いつも本当にありがとうございます。

 続きの執筆も頑張ります。


 

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