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ブラッドカーストファンタジア  作者: 十三番目
第二章 飼い主の実力

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第十九滴 演じる


珠羅(しゅら)様……お隣の方とは、どんなご関係ですか?」


 怒りを押し殺した声に、兎々(とと)がびくりと肩を揺らした。

 テーブル横で足を止めたくくりは、天璃(あめり)の方を不愉快そうに睨んでいる。


「いきなり割り込んできて、えらい喧嘩腰やな。うちらに挨拶もなしか?」


 怯える兎々の手を宥めるように握った霊藻(たまも)が、くくりに冷ややかな眼差しを向けた。


「序列っちゅうものを理解してへんようやな。そんなんやと自分……近いうちにお陀仏すんで?」


 くくりの背を、ぞわりとした悪寒が走っていく。

 逆らっては駄目だと理解した脳が、くくりの感情を幾分か落ち着かせた。

 

「……失礼しました。本日付けで転入してきた、東妻(あずま)家のくくりと申します」


 獲物であるくくりにとって、猛獣は自分よりも上の存在だ。

 ファンタジアでは生徒同士という観点から、家柄などの立場に関係なく、自由に声をかけることが許されている。

 ただし、自分よりも位の高い相手には礼儀を尽くさなければならず、下の者が上の者を無視することは許されなかった。


 逆に、位の高い者は低い者に応える必要がなく、気に入らなければ無視をすることもできる。

 よって、霊藻たちがくくりに名乗り返さずとも、周囲は不興を買ったくくりに問題があるとしか思わないのだ。


 授業後の店内には、他の学生たちの姿もちらほらと見える。

 注目されているのに気づき、くくりが居心地悪そうに眉を顰めた。


「それで、何だっけ。私たちがどんな関係か知りたいって話?」


「そ、そうです!」


 珠羅に話しかけられたことで、くくりの表情が明るくなった。

 にこりと笑った珠羅が、天璃の肩を引き寄せる。

 次いで聞こえた言葉に、くくりの表情が一転した。

 

「天璃ちゃんは私の飼い主だよ〜。要するに、ペットと飼い主ってこと」


 闇のような黒と目が合い、くくりが一歩後退る。

 どうしてと漏れた声は、悔しそうに震えていた。


「……っどうしてですか、珠羅様! わたしが飼い主になりたいとお伝えした時、あんなに優しく笑ってくださったではありませんか……!」


「自分、フィルターでもかかっとるんか?」


 感情を露わに叫ぶくくりに、霊藻が呆れたような顔で呟いた。

 憐れむような視線を向けられ、くくりが思わず口を噤む。


阿留多伎(あるたき)を庇うわけやないが、自分の勘違いやと思うで。どうせ『へえ〜、そうなんだ』とか適当な相槌打ちながら、胡散臭い笑み張り付けとったんやろ。それが肯定に見えたんかもしれへんけどな、阿留多伎は誰に対してもそんな感じやねん。自分が特別やったわけあらへん」


「わー、九重(ここのえ)ってば酷いね〜」


 傷ついちゃうと続けた珠羅だが、にこにこと笑いながら話す珠羅の態度は、とても傷ついているようには見えない。


「ま、こうゆうやつや。諦め」


 反論する言葉も思いつかず、くくりは珠羅にひっつく天璃を悔しそうに睨んでいる。

 ふと、先ほどから何も話さない天璃を不思議に思い、霊藻は斜め前へと視線を向けた。

 

「天璃、さっきからどうしたん──」


「あんまり睨まないで……怖い」


 くくりをチラリと見上げた天璃は、珠羅の身体を盾にするように隠れ、制服の裾をぎゅっと握りしめている。

 吹き出しかけた笑いを、霊藻はすんでのところで呑み込んだ。


 今や、店内の視線は天璃たちのいる席に集中している。

 他の生徒の目がある状況で、天璃がか弱い少女を演じることにした理由に、霊藻が気づかないはずもなかった。


「心配しなくても、天璃ちゃんのことは私が守ってあげるからね〜」


 珠羅に抱きしめられた天璃が、縋るように腕を回す。

 目の前の光景に耐え切れず、踵を返したくくりは、足早にカフェから去っていった。


 コソコソと聞こえる話し声に、霊藻が片眉を上げる。

 女子の噂は回るのが早い。

 今後のためにも、油断させておくのは悪くない方法だろう。


 紅茶のカップで口元を隠しながら、霊藻は唇を三日月のように吊り上げた。




 ◆ ◆ ◇ ◇




「ほんま、腹が捩れるかと思うたで……」


 寮への道を四人で歩きながら、霊藻は天璃に何とも言えない表情で声をかけた。


「ごめんね。クラス対抗戦の話を聞いて、咄嗟に思いついたことだったから」


 びっくりしたよねと続けた天璃に、兎々はふるふると首を横に振っている。

 珠羅や霊藻に対しては、はなから心配していなかった天璃だが、本音を言うと兎々の反応が少し気がかりだった。


 しかし、何ら変わらない様子で接する兎々に、天璃も頬を緩ませている。


「ほんで、予想通りに動きよったか?」


「やっぱり気づいてたんだね」


 くくりが天璃たちの後をつけていると分かった時から、天璃もまたくくりのことを観察するようにしていた。

 霊藻の話が終わったのを皮切りに、天璃はくくりから行動を起こすよう仕掛けることにしたのだ。


「そりゃあな。天璃と阿留多伎がなんかするたび、凄い目で見よったからな」


 いつか飼い主になれると思っていた憧れの猛獣の隣には、すでに別の誰かが寄り添っていた。

 何処の馬の骨か。はたまた泥棒猫か。

 くくりの心情を想像するなら、そんな感じだったのだろう。


 月の描かれた扉を開くと、天璃たちが暮らす寮のエントランスが広がる。

 宇宙をモチーフにしたような寮の内装は、煌びやかでありながら、不可思議な魅力も漂っていた。


 

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か弱いふり、流石に笑った
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