帰宅 4
ついにシュウのところにたどり着いたコースケとナオヤ。
色々と聞きたいことや話したいことがあったが、身の安全を第一にシュウを家に送り届けようとナオヤとコースケは考えた。
「歩けるか?」
「いやぁ……それが力入んなくてさ」
二人でシュウの肩を支え、なんとか立たせると少しずつ歩いていき、周辺で1番近い駅を目指す。
「大丈夫。まだ時間はあるからリクも探せるはず」
「でも大丈夫なのか?リクの親はメールに返事は来たとは言ってたけど、すぐには帰れない状況かもしれない」
「確かに……大まかな居場所さえ分かんないしな。メールでやりとりして探すしかない気がしてきた」
ナオヤはスマホを取り出しリクにメールを送ってみる。
〈今更かもだけど、無事?一応リクん家いったらリクのお母さんがメールの返事は来たって言ってたからメールしてるんだけど、今どこで何してる?〉
不安は残りつつもそうメールを送った。
流石にそんなに早く返事は来ないだろうと一旦スマホをしまって、シュウの支えに専念する。
「にしても疲れたなぁ。気づいたら交差点のど真ん中に突っ立ってたし、あのあと歩き出したら足に力入んなくなってきて動く内にと思って走ってたら真逆の方向で中途半端なとこでブッ倒れちゃってさ。ダセえなあ俺」
コースケとナオヤは互いに顔を見合わせた。
そしてナオヤがいくつかシュウに尋ねる。
「ちょっと聞いてみるけど、俺らは急に誘拐された。そんで変な部屋に連れ込まれたよな?」
「え?うん……なんか変なやつに手足縛られてから動けなくなって、そんで首に変なの打たれた」
またコースケとナオヤは顔を見合わせ、ウンウンと頷く。
((大体同じだな))
「そこで落ち着いて聞いてほしいことがあってだな……」
「俺らも首に変なやつ打たれたんだよ。そしたら意味わかんない力が使えるようになったんだよね……」
シュウはポカンとしていてまだよく理解していなかった。
「え、じゃあ何?よくテレビで見るような超能力的なのが使えるようになったって?例えばどんな力よ?」
コースケとナオヤは再び顔を見合わせて、またウンウンと頷く。
「俺は他の人が考えてることが分かる、っていうか」
とコースケ。
「俺は体が物をすり抜けるようになった」
とナオヤ。
「でも急にんなこと言われてもなぁ……」
とシュウ。
「流石にいきなり信じろなんて無理な話だよな。そうだな、じゃあ何か考え事してみてよ。ピッタリ当ててやるから」
コースケはシュウにそう持ちかける。
シュウは少し目線を上げて、ボーッと何かを考え始めた。
「ほう。考え事つっても何考えればいいんだよ、ってか?俺にも力があるのかどうか?あるならどんな力なんだろう、って?」
シュウは目を見開いてコースケの方を見た。
「え、マジなの?その力マジモンのやつなの?」
「そうだよ。マジのマジよ」
そこにナオヤも参戦する。
「じゃあシュウ。手出して」
そう言われて一旦止まって手を差し出すシュウ。
ナオヤはその手に自分の手を乗せ、そのまま真下に貫通させた。
「がぁっ、うぇ……?ちょ、え、は?何それ?ガチで今俺の……手すり抜けて……えぇ?」
「これで信じたか?」
「いやここまでしっかり証明されたら信じるしかなくね……?」
無事薬による力の証明も終えたところで、三人は周辺で1番近かった駅のすぐそこまで歩いてきた。
ナオヤはシュウに定期を手渡す。
「あれ?何で俺の持ってんの?」
「誘拐されたとこから逃げる時に4人分の荷物持って帰ったんだよ。バッグ持ってくんのは流石にキツかったからとりあえず定期だけ持ってきた。バッグはまた今度返すよ」
「そっか、ありがとね」
シュウは少し寂しげな顔で定期を受け取る。
「俺とコースケはこっからリク探しに行くけど……シュウはもう帰って休んだほうがいいと思う。1人で帰れそう?」
「え、もう俺帰んの……?やっと会えたとこなのに」
「流石にそんなボロボロのシュウを連れ回せないよ」
「でも……俺もいつもの4人で再会したいなって」
ナオヤとコースケはまた顔を見合わせる。
はたしてこのまま一緒で良いのだろうか、無理させてもっと疲弊させてしまったらと思うと、どれだけ4人で再会したくても、安全を第一に考えるべきなことに変わりはないとナオヤとコースケの意思は固かった。
「分かるよ……俺もコースケも4人でまた会えたらって思うけど、もう今までの俺たちじゃないんだよ」
「関係はもちろん今まで通りだよ?でも、1人1人が急に変化せざるを得なくなったんだ。状況……というか、心身ともに一旦整理したほうが俺もいいと思うんだ」
そう2人に言われて何も言い返せないシュウは、納得はしたもののすぐには帰ろうとしなかった。
「分かった。それぐらい俺のこと考えてくれてるってことだよな。ならばせめてリク探しに行くお前らを見送らせてよ。見えなくなったら俺も帰る」
「うん」
「分かった」
シュウは駅の入り口の段差に座り込み、リクを探しに向かう2人の背中をじっと見ていた。
「とりあえずシュウに会えて良かったな」
「うん。リクとはメールできるし、意外と何とかなりそう」
そんな2人の前に、突然男が現れた。
よく見ると、それはさっき街灯にもたれ掛かって座っていた男だとコースケは気づいた。
ナオヤは完全に無視していたので誰か分からなかったが、コースケは目の前の男から思考が読めなかったことですぐに分かった。
「うわっ!何だ?!」
「さっき座ってた人だと思う……てかこの人、なんかおかしくね?」
目の前の男は不気味な唸り声を上げ、ヨロヨロと歩きながらナオヤとコースケの方へ近寄ってくる。
その姿は誰が見てもまさに"ゾンビ"そのものだった。