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帰宅 3

人の隙間を抜け、建物の隙間を抜け、一心不乱にシュウの元を目指すコースケとナオヤ。

いくら声が聞こえたからといって、決して近くにいるわけではなかった。

遠いところにいるわけでもないが、2人がかりで探し出すのは簡単ではなかった。


「本当にこっちで合ってんのか?もう結構歩いたと思うけど」

「思ってるより遠いっぽい。でも声は少しずつ近くなってきてるよ」

『あぁ……疲れた……帰りたい……』


シュウの悲痛な声がコースケの頭に直接響いてくる。

コースケは今までよりさらに足を早めた。


「ごめんな、シュウ。今行くからな」

「シュウはなんて?」

「すごく疲れてる、っていうか、弱ってるっぽい」


そうして進み続けて30分は経っただろうか。

さっきの人混みとは大違いに人気のない薄暗い町が広がる。

その町をぼんやりと照らす古びれた街灯の一本に、人がもたれ掛かって地面に座り込んでいた。


『…………』


見たところ、シュウではなかった。

コースケは目の前で座っている人の思考を読み取れなかった。

暗くて下を向いていたので顔は分からなくても、思考が読めればシュウだと認識できたが、この男は全くもって誰だか分からなかった。


(思考がない……?珍しい人もいるもんなのかな?)


力を手に入れたばかりのコースケだったが、人間誰しも考えることはある。

つまり、今のところ思考がない人間には出会ったことがなかったコースケは、この時とても違和感を覚えた。


「誰だこの人」

「分かんない……けど考えてること読めないんだよな。シュウじゃないのは確かだと思うけど……」

「じゃあほっといて早く次行こう」

「でも……」


ナオヤは少し口調を荒げた。


「こういうのが積み重なってシュウを探すのが遅れたらどうすんだよ。ただでさえひとりぼっちで疲弊してんだろ?早く行かないとどうなるか……」


ナオヤはそう強く言い放ったが、どこか不安げな様子もあった。


『俺らの大事な友達なんだ、早く会いたい……それにリクだって今どうしてるか分からない……』

(そうだよな……確かに今は友達を何より優先すべきだよな。俺が間違ってた)


そうして二人はだんだんと近づいてくるシュウの声を目指して走っていく。

すると、さっき座り込んでいた男の方から声が聞こえてきた。


『何で……僕は何もしてない……の……』

(やっぱり思考があった。でも一時的といってもあんなに無になることなんてそうそうないと思うんだけ……)

『に…………』

(ど……?)

『……………………』


ナオヤの声が飛んでくる。


「前見て走れ!危ないぞ!」


コースケはハッとして前に向き直る。


「ごめん、疲れてきてるのかも」


コースケはどうしてもさっきの座っていた男のことが気になってしょうがなかった。

でもとにかく今はシュウのことだけを考えろ、と自分に言い聞かせ走っていった。


そこからさらに10分ほど経ったところで、二人は一旦足を止めた。


「っハァ、ちょっと……休憩……」

「確、かに……流石に走りっぱなしは……疲れる、な……」


ずっと走っていて疲れた二人はその場にへたり込んだ。


『もうダメかも……あぁ、俺こんなとこでひとりぼっちで死ぬのかよぉ……』

「シュウ?!」

「いたのか?!」


目線をまっすぐ前に向けると、すっかり日も落ちて暗くなった夜道のど真ん中に、人が一人倒れていた。

ここからならもう直接声も聞こえるほどの距離だった。


「誰かぁ……いないんですかぁ……助けてよぉ」

「「シュウ!!!」」


さっきまでの疲れも忘れて二人は倒れていたシュウの側に駆け寄った。


「ああよかった、やっと見つけたぁ……」

「もう、何でこんな真逆の方向歩いてたんだよ」

「へへ……スマホも何もないと、正しい方向にすら歩けなくなるなんてね……」


三人は再会の喜びを分かち合っていたが、ゆっくりするべきタイミングは今ではない、まだリクが残っている。

だが、ここからリクに会いにいく前にもまだいくつか乗り越えなければならない壁があることを三人はこれから思い知らされることになる。

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