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「どうする」

「どうしよ」

「ヤバい」

「落ち着け」


辺りは一刻も早く会社に行きたいサラリーマンやOL、学校に遅刻が確定した男女で溢れかえっている。

ゾンビは地下のホームにおり、人々はそれを避けるように円形の空間を作っている。


悲鳴は聞こえず、ソワソワとした空気が漂う。

写真や動画を撮る人、何が起きているか分からず凝視し続ける人、その異変に対し睨みつける人……そしてゾンビは"まだ"1人で、空いた円形の空間の中にポツンと唸り声を上げ、痙攣するような奇妙な動きを見せる。


4人は慌ててヒソヒソと話を続けている。


「何で誰も逃げようとしないんだよ?」

「わかんねえ。ホントにゾンビがいるのかよ?」


シュウとリクがコースケに問い詰める。


「確かにあれはゾンビのはず――」


(……あぁ、痛い……助け、テ)


「――え?」


コースケは再び思考が読めるようになった事に驚きを隠せなかった。


「ちょっと待って……ゾンビの思考が読めるんだけど……?」

「「「え」」」


ゾンビはまた空気を揺さぶるほどの大きな唸り声を上げた。

それを間近で見ていた人々の中にはついに苛立ちが頂点に達した人もいた。


「んだよさっきからうるせぇんだよこの野郎!!」


その声にゾンビはゆっくりと体ごと回転させ、罵声を浴びせた中年男性の方にまっすぐ向き直った。


「ウ、ルサ……イ、ルサイ?……ド、ヒド、イ……」

「言いたい事があんならハッキリ喋れゾンビみてえな真似しやがって」


その男性の"ゾンビ"というワードを聞いた瞬間、ゾンビはさっきまでの唸り声とは比べ物にならない程の声量で叫びだした。

人々の中にはあまりの音量に鼓膜が破れ耳から血を流す人も少なくなかった。


「だからうるせ――」


男性がそう言いかけた時、男性は一瞬にして2つに引き裂かれた。

後ろにいた人々にその血しぶきがかかり、床には左肩から腰にかけて斜めに千切られた左腕が転がっている。


「ああああああああああああ!!!!!」

「人が、人がああああああああああ!!!!」

「いやぁぁああああああああ!!!!」


人々は目の前で中年男性が殺害されたことでようやく悲鳴を上げた。

だがこの人混みで地下にいる人が逃げるのは困難だった。

中には飛び出した臓器や骨を見て嗚咽が止まらないものも多く、その惨さ故に気絶し倒れる人も続出した。


「ナン、デ……?ニゲ、ルノ……?」


ゾンビは自分を避けて逃げようと必死な人々を見ている。

中年男性の直ぐ側に立ち尽くし、首だけを動かして辺りを見回している。


「あっ、人が……」


一方地上の改札では、その叫び声が聞こえてくると全員がその異変に気づいたが、具体的に何が起きているのかは分からない人もいた。


階段で止まっている人達はその現場を目撃した人から徐々に上の人達に伝えていきすぐに事を理解したが、パニックに陥った人は何気ない普通の行動すら取れなくなるもので、誰一人として改札を出ることが出来なかった。

我先にと小さなくだらない争いが始まってしまったことで、誰も足を動かせないほどに密度が凄まじいことになってしまったのだ。


「う、うかうかしてられないな」


ここでナオヤが覚悟を決めた。


「コースケ、その力でこの人たち全員大人しくできるか?」

「やってみるしかないね……」


コースケは目を大きく見開き、脳の神経を集中させる。

膨大な思考の情報が一気になだれ込むのが分かる。

それを1つずつ丁寧に受け止め、整理し、全てを同じ形式に整え、管理する。

そんな感覚でコースケは改札内の人々全員の支配権を掌握すると、まずその場で動きを止めさせ、綺麗に列に並ばせた。


「凄い量……長く持たないかも」


ナオヤは次の手を考えた。


何を最優先にすべきか?

それは一般人の命だろう。

ではその命をゾンビという脅威から守るためには?


――ゾンビを倒す。

でも人が多く、巻き込みかねない。

――避難させる。

時間がかかるし、コースケの限界も考慮しないと……


「あっ」


ナオヤは一か八かの賭けに出た。


「シュウ。その速さでここの全員改札の外に出せたりするか?」

「マジで言ってんの?」


シュウは眉にシワを寄せた。

地上の改札内だけでもざっと100人前後。

改札外で待っていた人を含めるとプラス50人前後。

地下のホーム両車線も込みだと500人は超えるだろう。


この一刻を争う状況に文句を言っていられる暇もなく、シュウはナオヤの提案に乗った。

すでに犠牲者が出てしまった以上、これ以上増えるのは時間の問題だった。


「避難って、どこに?」

「駅から離れたところだよ。離れ過ぎも良くないけど、ここでゾンビとやり合っても被害が出なそうなところに」

「んだよそれ、適当だなぁ」


シュウは脱いだローファーに靴下をねじ込むと、なるべく高くに放り投げた。

真夏の地面は裸足には熱すぎるが、シュウにとっては仕方がなかった。


自分のスピードが上がっていくにつれ、そのローファーの動きが遅くなっていく。

目玉を動かし、なるべく隙間が空いているところを縫って一旦外に出ると、とりあえず1人を50メートルほど離れたところに移動させた。


「……え?え、何?何が起きてる?」

「えっと、今避難させてます。地下にバケモンが出たので、こっちで対処しますから、ここから動かないでください。すでに犠牲者もいるので、これはふざけてるわけじゃありませんよ?」

(これぐらいなら服が灰になったり速さで酔ってゲロることもない、か。イケるな)


説明を終えたシュウは今度は片っ端から人を移動させていき、みるみるうちに駅からは人が減っていった。

人が減り露わになった床には投げ捨てたローファーが雑に転がっていた。


「問題はこっからなんだよ」


地下にいる人々と、ゾンビの対処である。

シュウはまた避難させた人々のところに戻り、念入りに事の状況を説明する。



一方、人が減った地下では3人がその対処に回っているが、上手く手が回っていない状況だった。

下手にゾンビを刺激すると、新たな犠牲者を出しかねない。


「いっそゾンビを出して人は地下に避難させるってのもアリなんじゃねえの?」

「ゾンビの怪力覚えてないのか?紙を千切るようにコンクリートを壊せるんだぞ、もしも瓦礫で塞がれたらどうする?それに――」


さっき殺された中年男性の死体が変色していき、少しずつ動き始めた。

静かに階段側の人には避難を呼びかけ、各自外に逃げてもらってはいるが、奥にも人はかなり残っている。


「――一般人が感染すれば、そんなバケモノがどんどん増える。ゾンビのコロニーにするわけにはいかないだろ」


ナオヤが額に汗を滲ませている。


ゾンビの隣に、ゆっくりと起き上がった中年男性のゾンビが歩いていくと、3人の方をじっと見つめる。


「あ、あぁ……いたい、イタ、イタ、イ……」


中年男性の方がハッキリと、そう口にした。

3人は驚愕した。


「ゾンビが――」


緑色のような、紫色のような血を垂らしながら少しずつ唸り声を上げながら近寄ってくる。


「喋った……?!」

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