集合 1
「ん……ん?」
コースケはさっきと同じベッドの上で再び起き上がった。
周りにはさっきと同じくいつものメンツが揃っている。
「おぉ、やっと起きたか。気づいたらまた寝ていたから様子を見ていたが、相当消耗してたみたいだな」
トキマサが忙しなく歩き回りながら部屋を行き来しているのが見える。
「よっ、元気か?」
「グッスリだったなぁ、3時間ぐらい寝てたぞ」
「まあいつも通りに戻ったならそれでいい」
レイの姿が見当たらず、少し寂しさを感じたコースケは辺りを見回すも、やはりどこにもその姿はなかった。
「あぁ、レイなら帰ったぞ。見たところマズそうな感じだったから、ワンチャンバレた説あるな」
「え……」
「もしかしたら、の話。あくまで俺の予想」
そうやって不安を煽るナオヤにコースケは少し苛立ちを覚えた。
「ところで、さっき何が起きてたんだ?」
シュウが待ってましたとばかりにそう問いかけてきたが、コースケ本人にもよく分かっていなかった。
「さあ……?学校の休み時間にレイさんと話してたら、急に頭痛がしたような……そこから記憶がなかったんだけど――」
「だけど?」
もう1人の自分と話していたことや記憶を思い出すと、何が現実で何が嘘なのか、境界線が曖昧に感じてしまっていた。
「もう1人の自分がいた。それで一時的に入れ替わった後にいろいろ話して、その途中で元に戻ったんだよね」
トキマサが真剣な表情でウンウンと頷きながら話を聞いていた。
それ以外は口が半開きになったまま唖然としていた。
「非常に興味深い……これはスゴいことだぞ」
トキマサがパソコンに向かい何やらカタカタと打ち込み始めた。
「そういえば……博士は色々と準備してたんじゃないんですか?メールもできなかったのにどうやって分かったんですか?」
少し申し訳なさそうに頭を掻きながらトキマサは説明を始める。
「確かに、連絡用の端末を渡すのを忘れていた……ここ最近はそれぞれ力を使うこともなかったみたいで脳波が落ち着いていたんだが、ちょうどうちのデバイスのアラートが鳴ったんだ。コースケ君の脳波が暴走しているとね」
トキマサは咳払いをしながらも説明を続ける。
「それで急いで学校に迎えに行った。他の皆は放課後に来るように言って先にこのベッドにしばらく寝かせて様子を見ていた、というワケだ」
トキマサはパソコンを見た後にまたコースケの方を見る。
「だがしかし、なぜこんな現象が起きたのか……薬の開発段階でもこれは可能性として算出されなかったものなんだがね。詳しくその時の体験を聞かせてもらえないか?」
「はい……」
コースケも、急に真っ暗闇の中に放り出されフワフワと漂っていたことや気がつくと違う世界で目覚めていたこと、そしてもう1人の自分と話したことを詳細に説明した。
「違う世界、というと具体的には?」
「ファンタジーみたいな異世界、っていうモノじゃないです。普通にココとそっくりな世界だけど、色々と違う箇所がいくつかある、みたいな……?」
トキマサは話を細かくパソコンに打ち込みメモをしている。
「例えば?」
「目覚めた時、今は夏なのに向こうは秋でした。そして目の前には向こうの世界のレイさんがいて、そこでは恋人同士で……」
「え、マジで!?」
リクが異様に食いついたが、スルーして話を続ける。
「付き合い始めたのは夏祭りの夜で、向こうの自分が1ヶ月前から異常を感じ始めたと言ってました。でも力を手に入れてから2週間も経っていない……」
トキマサは静かに頷きながらエンターキーをパチンと叩く。
「そのまま続けて」
「えっと、それで向こうの自分は今の俺として目覚めた時、レイさん以外誰が誰だか分からないと言っていました。知り合いですらない、赤の他人って感じで」
キーボードを打ち込む手が少し緩んだ後、また勢いよく指がキーを叩く音が響く。
「なるほどな……そして互いの記憶が共有された。また、コースケ君は向こうの世界の人の思考を読むことができなかった……と。確実なことは分からないが、ある程度仮説を立てることはできる」
トキマサはモニターに図を表示すると、その仮説の説明を始めた。
「コースケ君に投与された脳波電感増強薬は、相手の脳波に流れている情報とリンクすることでその力を発揮するものなんだが――」
トキマサが図を指さすと、そこにはオレンジと緑の2色の細長い線が交差して描かれている。
「――これは脳波を示していてね。オレンジがその個体を示す脳波、そして緑の方はその情報を示しており、オレンジはδ派、緑の方はγ派と呼んでいるんだが、脳波電感増強薬というのはこのγ派とリンクすることで相手の思考を読んだり他人を操ったり、その個体の情報を自在に管理できるという仕組みなんだが……」
そこで図が切り替わり、そのオレンジと緑の線の隣にオレンジと赤の線が表示される。
「意識が無かったコースケ君の脳波の中に、この全く別の脳波が一時的に紛れ込んでいたんだ。そしてこの全く別の脳波はこの赤の線が示していて、これはγ派ではなく全く種類の違うψ派だった事が分かった。よってコースケ君は向こうの人間の思考を読むことができず、向こうの世界では能力を持っていないも同然だったということになる」
一同はとても納得した。
「それでも一時的に入れ替わったのは、お互いに全く同じδ派を持っていたからだとワシは推測する。全く同じδ派の個体が、全く違うγ派とψ派の情報を持っていた時間……つまりこれが入れ替わっていたという証明になるハズだ。ここの間だけは、δ派でリンクしていたのだろう。結果、同じ個体に流れる異なる情報は元の個体が分からず共有されてしまったということだ」
コースケはトキマサの話を聞いてとても腑に落ちた。
「にしても、パラレルワールドは実在したということか……前代未聞の大発見だぞコレは……情報を示す脳波が違うなら時間軸の変化による分岐世界はあり得ないし……全く違う次元の世界が……ウヘヘ」
少しコウフンしてしまったトキマサは事細かに詳細をまとめ、再びエンターキーを大袈裟なほど強く叩くと、そのタブを閉じた。
「まぁ、そういうことだ。何はともあれまずはおかえり、コースケ君。そしてようこそ、新拠点に」
そういえばここがどこか聞いていなかったなと、コースケは改めて周りを見回してみるが、普通の家のように見える。
「えっと……」
「前にも話しただろう?佐々木君の家だよ」
「え、居候してただけで拠点は……」
「そんな金は無い!ということでここに居て良いとお許しが出たのだよ。言ってなかったか?」
「そうだったっけ……」
シュウ、リク、ナオヤの顔を交互に見るも、皆両掌を天井に向けて肩をすくめている。
「確かにちょっとビビったけど、この家すげえよ。結構強固らしいし、なんとかなるだろ」
「あ、そうなんだ……」
そこに階段を降りる音が聞こえてくる。
「おや、皆さんお揃いのようで。博士以外の方達は初めまして。佐々木花一と申します」
ワックスでガッチリ固められた髪に真っ黒なスーツを着た、銀の縁の四角い眼鏡をした無表情な男が一礼すると、再び上に階段を登っていく。
「只今帰ってきたばかりですので、片付けが済んだらまた来ます」
また一礼すると、今度は足音を立てずに上に登っていった。
「あれが……」
「ああ、ワシの頼れる秘書だ。この地下の部屋もまるまる使っていいって言ってくれたんだ……お陰で研究も生活もできる」
トキマサは嬉しそうに話していたが、すぐに真剣な顔に切り替えると、一同に告げた。
「花一が戻ってくるまで待っていてくれ。ここからはゾンビ化現象を止めるための作戦を話し合いたい」
4人は現実を目の前に息を呑んだ。




