不安 3
少し沈黙が流れた後、ため息をついてから"もう1人の"コースケがそれを破るように口を開いた。
「何も知らないのか?俺はここ数日酷い頭痛や幻覚に襲われてたんだ」
"元の"コースケにとっては、何を言っているのかさっぱりだった。
「ありもしない風景や記憶が頭に流れてくる感じがしてた。人の考えてることが分かるとか、ゾンビがどうとか……変な病気にでもなったかと思ってた――」
「え……」
少し分かってきたようでまだ完全には何も分からないが、どうやら"元の"コースケの記憶も"もう1人の"コースケの方に流れていたようだった。
「――そっちの記憶だろ?てことは、俺の記憶もお前の方にいったのか?」
「え、あ……うん」
"もう1人の"コースケは険しい顔ながらも少し顔を赤らめていた。
「……分かるのかよ。その……俺の考えてることも」
それを言われてハッとした。
それが、全く考えが読み取れなかったのだ。
今目の前にいるもう一人の自分の思考が何も聞こえてこない。
まるで能力が消えたかのような、言われるまで能力のことも忘れてしまっていた。
「いや、分からない」
「ていうか、どういう事だよ。お前はエスパーか何かなのか?本当に超能力みたいなのが使えるのか?何でだよ?」
「それは……確かに普通はあり得ないけど、色々あったとしか……」
"元の"コースケは能力の証明ができないことに少し焦りつつ、元の自分に戻るにはどうすればいいか考えていた。
「なんだよ、うさんくせえな。さっき起きた時、何人か人いたけど、あれはそっちの知り合いなのか?年同じぐらいの男子3人、薄いピンク髪で白衣着たちっこい丸眼鏡かけたジジイと――」
"もう1人の"コースケはそこで一回言葉を詰まらせた。
「――っ、レイがいた……」
"もう1人の"コースケはモジモジしながらゆっくりと視線を自分の足元に向ける。
「え、ああ、うん。友達と、まあ…保護者?かな?」
「どういうことだよ?!あの男子3人とジジイは誰なんだ?!なんであの中にレイがいるんだ?!見た目はそっくりなのにあれは俺の知ってるレイとは全く違う!」
"元の"コースケは少し理解に苦しんだ。
何が言いたいのかはじめは全く分からなかったが、少しずつ全体の道筋が見えてきたような気がした。
(仮に、映画とかでたまにあるパラレルワールドがあったとして……同じ人物は存在するけどその関係性や環境は同じとは限らない、ってこと?だとしたらシュウもリクもナオヤのことも知らないことは合点がいく。博士のことを知らないのも当然だし、俺の能力のこととかゾンビ化現象のことを知らないのも頷ける)
何か掴めそうで掴めない、その感覚が"元の"コースケにはとてもむず痒く感じた。
(何で俺の能力でこんな現象が起きてるんだろう?人の思考読んだり操ったりするだけのはずなのに……それに、レイさんに関しては互いに共通の人物で、それで……向こうでは恋人……)
"元の"コースケもなんだか顔が熱くなってきたような気がして、まともに頭が働かなくなりそうだった。
「ごめんだけど、こっちも色々初めてで何も分かってないんだよね。完全に推測だけど、何らかのキッカケで別世界同士の自分と繋がったんだと思う。何言ってるか分からないと思うけど」
「当たり前だ!知らないところで目が覚めたら知らない男たちの中にレイがいて……お前の記憶が流れてきて……」
(そりゃ、自分も能力とかそんなものなければこんな反応になるだろうな。すでにあり得ないものに触れすぎて、感覚がおかしくなってるんだ。これが正常な反応だよな)
そう自分に言い聞かせた"元の"コースケは一旦冷静に、"もう1人の"コースケに質問をすることにした。
「ちょっと聞くけど、その男子3人について……俺の友達なんだけど、そっちは誰かも分からなかった?」
「ああ知らないね。あの中でレイ以外誰も知らない」
(偶然なのか?何でレイさんだけ共通で知ってるんだ?特に意味はないのか?)
「じゃあ次に聞くけど、頭痛とか幻覚とかはいつ頃から?」
「大体1ヶ月前ぐらいだった。初めはそこまでだったのに、どんどんひどくなっていった」
(1ヶ月前……?まだ能力を手に入れてから2週間も経ってないはず……っ?!)
急に見えない力に引っ張られるのを感じ、もがくも虚しく2人のコースケの距離は離れていく。
「待てよ……まだ話は、っ」
「なんだこれ?!離せ!!!」
――気付けば見知らぬ部屋のベッドに横たわっていた。
周りには"もう1人の"コースケが言っていたように、シュウ、リク、ナオヤ、トキマサとレイが心配そうに自分を見つめている。
「あ……えっと、これはどういう……」
一同は安堵のため息を漏らした。
「あーもう、てっきり人格変わっちまったかと思ったぜ。起きるなりいきなりレイのとこに飛びつくんだから」
「え」
(何してくれてんだあの野郎……!)
「アハ……記憶にないかも……」
目玉を動かしてレイの方をチラリと見ると、相変わらずの真顔ながら顔をリンゴのように赤くして視線を逸らしているが、時々5秒に1回ほどのペースでコースケの方を見てくる。
「心配してないといったら嘘になるけど、あくまで私たちは敵同士よ。約束忘れてないでしょうね」
「覚えてるよ。助けてくれてありがとう」
「別に……クラスメイトが目の前で急に倒れたら誰だって心配するわよ。ここではただのクラスメイトとして助けただけ、戦うとなれば話は別よ」
コースケも安堵のため息をつくと、ベッドにボフンと思い切り倒れた。
「良かったぁ、戻ってこれて」
「フム、興味深い。コースケ君、後で色々とデータを取りたいから、協力頼むよ」
「了解でーす」
少し頭と心の整理をしつつ、シュウたちと再び話せる喜びをコースケはゆっくりと噛み締めた。




