"普通" 4
少しの沈黙が流れた後、2人はその場を後にした。
「おばあさんはいいんですか?」
色々と捜査が行われている一軒家の方を見てシュウは尋ねる。
草むらに落ちているおばあさんの首に近寄ったその女子は、優しく包むようにそれを抱きかかえた。
「いや……私の大切な家族ですから、あそこに行って話ができたらと思います」
シュウは小さく頷き、その女子に別れを告げた。
その女子も真っ赤に腫れた目を閉じ、シュウに別れを告げた。
「会えて良かったです。またどこかで会えるといいですね」
「ええ、ありがとう。あっそういえば……」
一度目を逸らし、向き直った時にはシュウの姿はなかった。
(名前聞き忘れちゃった……また、会えるといいな)
その女子は現場に歩いていき、捜査官やその他の目撃したとされる人たちから情報を手に入れた。
「ありゃ何がなんだか、突然家を訪ねてきたかと思えば急にばあさんを襲い始めたんだ」
「しかも何も持ってない、普通の人みたいだったのよ……」
捜査官も、頭を悩ませている。
「ええ、これは刃物で切断したような跡ではありません……腹部といい、首の切断面といい、これは引きちぎるようにして切り離した跡としか見られません」
その女子は実の祖母がこんなことになってしまったのもあるが、そのあまりの惨さにも怒りがこみ上げてきた。
「……つまり、相手は人型の"何か"で、体を引きちぎれるぐらいの怪力を持っているということですか?」
捜査官は静かに、ゆっくりと頷いた。
「あっ」
1人の男の老人が思い出したように口を開いた。
「確かにそいつは"人"だったが、やけに顔色が悪かったぞ。青白いっつーか、緑がかっていたというか、何か様子がおかしかった。歩くのもたどたどしい感じがしたしなぁ」
その女子の中で何かが吹っ切れた。
「ありがとうございました。これにて失礼します」
おばあさんに別れを告げて、人気のないところへ走っていく背中を大人たちは見送った。
「残念だよ、本当に」
「ここまで残酷なのをあの年で突きつけられると流石に辛すぎますよね……」
「あの子は強い。心配は要らんだろうよ……」
誰も見てないところで、その女子は状況を整理した。
(やっぱり、あちこちでゾンビが増えてきてるんだ。おばあちゃんもゾンビにやられたと見て間違いない。何で急にここまで……?)
鋭い眼差しで遠くを見つめた後、風に乗って東京へと飛んで行く。
「何にせよ、うかうかしてる暇なんてもうない」
激しく冷たい風が体を包み、通り過ぎた軌道の節々に小さな涙を残していった。
シュウが学校に戻った頃には、すでに授業は始まっていた。
「遅かったな」
「あー、まあな」
リクは目を細めてシュウをまじまじと見つめた。
かなり気になっているんだろうとシュウも大体予想はついている。
「後でじっくり聞かせてもらうからな。あんま隠し事とかよくねえぞ」
「はいはい、言いますよ」
超絶エグい腹痛に襲われ、茶色の魔物とトイレで決闘を繰り広げていたという裏ストーリーで遅刻をなんとか許されたシュウは、机にノートを広げて考え事を始める。
数学とは全く関係のない、人と思われる絵を真剣に描いていく。
(多分、あの場所とか考えてヤバい奴らがおばあさんを狙ったとは考えにくい。それに、なぜ殺されたのか動機は何なんだ?あそこまでひどい殺し方をする必要はないだろうし、なら誰の仕業なんだよ……って……ん?)
薬を打たれ、コースケとナオヤが探しに来てくれた時のことを不意に思い出した。
コースケとナオヤがゾンビのような人に襲われていたのも、今思えばなぜなのか。
あの人気のない道に1人だけ、取り残されてしまったのか。
凄まじい怪力で、コンクリートやアスファルトもいとも簡単に砕くほどの怪力で一般人が一撃でも食らえば即死は確実だ。
(んー……)
また、リクを探していた時は一般人が襲われ、襲われた人がゾンビとなってしまっていた。
その人も他のゾンビと変わらず怪力になり、また別の人を襲う。
(どうしても、おばあさんを殺したのはゾンビ化した人な気がしてならない)
そして、警察署で盗んだ書類。
ウイルスと書かれたよく分からないものだったが、ここまでを振り返ってみれば何となく予想が立てられる。
(警察だか何だかわからんが、どこかの組織がウイルスを開発したとして、それを打たれた人がゾンビ化する……その後は?)
「………おい」
(しかもそれは人に伝染る……あっという間に広がるし、開発側としてもコストを削減できる?確かあの紙には生物兵器として、って書かれてたよな?この国を侵略するために準備されてたものがもう実行に移されているのかも)
「おい」
「ふぇっ?!」
「何をブツブツ陰謀論者みたいに……教科書の67ページの問4を早く答え――」
シュウは数学教師の言葉に今授業だったことを思い出した。
シュウ意外のスピードが遅くなっていき、その間シュウはのんびりと指定の問の計算をし、終わった時に力を解除する。
「――なさい」
「54°と87°です」
「なんだできるじゃないか。できるからって、授業もちゃんと聞いとけよ」
「はいすみませんでした」
授業が終わり、また4人で集まるとシュウは全員におばあさんのことを打ち明けた。
「なるほど、どおりであんな焦って飛び出していったわけだ」
「おばあさんのことは残念だな。でも俺たちに関係あるのか?」
「関係しかないんだよこれが」
そしてその孫である女子のことや、その女子も能力者であること、おそらくゾンビ化した人の仕業であるシュウの予想など、今知っていることは全て話した。
「空気を操る……博士はそんな薬作ってなかったよな。どうやって力使えるようになったんだろ」
「分かんない。何も分かんないけど、悪い人じゃなかったよ」
4人が話しているところを、別の女子がまたじっと見ている。
(空気を操る女?そんな話は聞いたことないわね……渡されたデータにはそんな力載ってなかった)
コースケはまたその思考を感じ取り、ついにその口を開いた。
「ねえ、さっきから何なの?そんなに気になるなら一緒に話そうよ」
少し嫌味混じりにそう言うと、他の3人は驚いて辺りを見回すも、コースケにしか聞こえていないため何が起きているかわからない。
「気になるんでしょ?レイさん」
そうしてコースケの指さした先にはコースケと同じ4組のクラスメイトの女子であるレイがいた。




