"普通" 3
シュウは頭が真っ白になり、いきなりその力を使い全力で走り出した。
焦りで息が重くなる中、シュウはなんとなく覚えている記憶に従い無心で走った。
「ちょ、どうしたんだよあいつ……」
ナオヤは意味が分からずただ固まっている。
リクは心配そうにシュウが走っていった方を見つめ、コースケはその事情を知っているが何もできない無力感を感じていた。
他の生徒たちはそんな4人のことなどなんの気にも留める事なくもはや眼中にすらなかったが、1人だけ、ある生徒がその様子をじっと見ていた。
(能力者?この学校にもいたのね……って――)
机の横に掛けてあるバッグから何枚か紙を取り出すと、それをじっと見つめてため息をこぼした。
(まさにこの4人じゃない……まさか同じ学校に通ってる生徒だなんてね)
コースケはそんな声を聞いた。
(え?今なんて……)
辺りを慌てて見回すもそれが誰なのかまではよく分からなかった。
「早く……早くしないと……」
シュウはあの男に追いかけられながら走った道を何となくだが思い出しながら進んでいく。
およそ20秒もかからずその現場に到着するも、かなり騒がしく中に飛び込んでいけるようではなかった。
警察や消防隊、救急隊の人々に一般人らがとある一軒家の周りにたくさんいる。
それは紛れもないあのおばあさんの家だった。
(腹部から上下に切断……勘違いか何かの冗談であってくれよ……)
80代の女性の時点で望み薄なのは分かりきっていたが、それでも自分の目でどうしても確認しておきたかったのだ。
もし生きているなら、助け出せるかもしれない……ついさっきまでは、そう思えていた。
「あ……え……?」
住宅地の陰でこっそり現場の様子を見ていたシュウは、近くのそこそこ茂った草むらに見慣れない物体を見つけた。
恐る恐る近づいて見てみると、それはあのおばあさんの首だった。
思考が全て吹っ飛んだシュウはその場で膝から崩れ落ちた。
少しだけなら現場の方も見ることができ、そこに横たわる上半身と下半身が分断された死体には頭部がなかった。
放心状態だったが、現状を目の当たりにしたシュウは受け入れることはできずとも頭で理解した。
「あああああぁぁぁぁ…………」
目の奥が強く握りしめられるような感覚に包まれ、だんだんと顔が熱くなってくるのを感じる。
「何で……そんな、嘘……ごめんなさい……」
あの時すぐ帰らなければ、などと今となっては無意味な考えばかりが浮かんでは消え、そして全てが無力感として脳にジリジリと焼き付いていく。
今できることは何なのか、誰にどうやられたのか、何もわからずただ地面を少し濡らすことしかできることがなかった。
そうして俯いているシュウの後ろに、誰かが急に現れる。
シュウはその足音に気づくも、振り返ることはせずただ涙を流すだけだった。
「ハァ……え?ちょっと、大丈夫ですか?」
声は女で、どうやらシュウとほぼ同年代のようだった。
初対面の女子はとても優しく、顔も何も知らないシュウに寄り添いの言葉をかけ、なぜ泣いているか心配をしてくれた。
だが、シュウが口を開く前にシュウの目の前に落ちている首を見て、その女子も崩れ落ちた。
「え……?おばあちゃん……?」
赤ん坊にも負けず劣らずの勢いで女子はわんわんと泣き声を上げた。
少しだけ落ち着いたシュウはやっと振り返り、その口を開いた。
「あの、もしかしてお孫さんですか?」
女子は涙を腕で拭いながらシュウに向き直る。
「はい。ニュースを見て、いても立ってもいられなくなってすぐ飛んできたんです。そしたらあなたがいて、その下におばあちゃんの……まさかこんな……」
シュウはやっと落ち着いたのにまた泣きそうになってきて下唇を噛み締める。
話そうとすると顎が震えてうまく声が出せない。
それでもなんとか話そうと何度も深呼吸をする。
「僕も、このあたりで気を失ってしまったときあの人に助けてもらったんです……自分もニュースを見て、まさかと思って飛んできたら……」
2人は妙な違和感を覚えた。
女子の方がシュウに尋ねた。
「うっ、ちなみにどこに住んでるんですか…?」
「え、東京、ですけど……そちらは?」
「私、も、東京……え?」
そしてここは千葉である。
車か電車か、何らかの手段を使わなければ高校生が1人で来ることはまず不可能。
しかもニュースはついさっき放送されたばかりで30分も経っていない。
シュウはおばあさんから孫は能力者だと聞いていたので、そこまで驚きはしなかったが、孫はシュウに驚きを隠せなかった。
「どうやって来たんですか……?」
シュウは少し迷ったがあのおばあさんの孫だし悪い人ではないだろうと言うことにした。
「自分は早く動けるみたいな力があるんです。それで走って来ました」
「能力者……私と同じ……他にもいたんだ」
シュウはこの流れに乗って女子に尋ねる。
「おばあさんから孫にも力があると聞いていたんですけど、どんな力なんですか?」
女子は少し戸惑った表情を見せたが、少しキョロキョロ何かを探し始めたかと思うと葉がたくさん落ちているところを指さした。
「あそこ見ててくださいね」
そこに向かって女子が手を上に捻るように動かすと、旋風が巻き起こり葉が螺旋の軌道を描きながら宙を舞う。
シュウは目を見開いた。
「風を操る力……?」
「正確には空気の流れ、とでも言いますか、まあ風を操るでも間違いではないですかね」
2人は現場から少し離れた一軒家の裏でクスッと笑った。




