下校—ナオヤの場合
学校終わり、いつものように4人揃って帰っていただけだった。
どうしてだろう、ナオヤはそんなことをずっと考えていた。
何一つ変わらぬ日常を送っていただけなのに、急に謎の銃を構えた男たちが襲ってきたのだ。
今は意識がハッキリしているので、今思えばあの銃は麻酔銃だったと予想できるが、それにしてもあまりに唐突すぎた。
(ここはどこなんだろう。あいつら大丈夫かな)
狭苦しい部屋に運び込まれると、壁に括り付けられて身動きが完全に取れなくなった。
(あーこれやばいやつだわ。拷問とかそんな感じのことでもされるのかぁ)
「おう起きてんのか。急で悪いな、こっちも命がけでな。家族の命もかかってるんだ」
(あれ、いい人?)
「何でこんなことをするの」
「すまない。俺は何も言えねえ」
男は銀色のカプセルのようなものと透明のカプセルのようなものを取り出し、ナオヤの首に打った。
「言えることがあるとすれば、俺も不本意だということだ。やはり家族は何にも代えられなくてな」
「……そっか。おじさんも大変なんだね」
「犯罪に加担してるのも分かってんだ。ダメな父親だな、ハハ……」
「多分、今の感じ見てるとおじさんは悪い人じゃないよ。それに父親なら尚更、いい父親だと思うけどね。何よりも家族を思ってのことなんでしょう?」
男は黙ったまま目に涙を浮かべて作業をこなしている。
「よし、終わりだ。本当に迷惑をかけた。お友達にも申し訳ないことをした。他の奴らはマナーもモラルもない物騒なのばかりでお友達を傷つけてるかもしれない……」
「まあ許したくはないかな、だからってどうしようもできないんだけど」
「ああ……俺も少しでも反乱分子だと思われれば消されちまう。だからお友達を助けてやることはできねえ……本当にすまない。せめてと言っちゃアレだが、君たち4人分の荷物は外のトラックに入ったままだ。ここは地下5階だから、通路を出てエレベーターに乗れば外に出れる」
「分かった」
男は壁に括り付けていたナオヤを解放すると、外を確認してからエレベーターまで案内した。
「気をつけて帰れよ」
「……おじさん。死なないでよ?」
「…………保証はないがな。俺だって死にたかねえ」
「最後に名前聞いてもいい?」
「坂川アキオだ。そっちは?」
「ナオヤって呼んで」
男はどこか優しくも悲しげな顔をした。
「いい名前だな。……それじゃあな」
「絶対にまた会おう。アキオさん」
そうしてエレベーターで二人は別れた。
地上に着くと、そこはどこかの裏口のようだった。
ナオヤは外に出ると、表の方に回った。
そこは大きな建物で、上品な身なりをした大人たちが大勢いた。
高級そうなタキシードを着たタクシードライバーやドアボーイもちらほらいる。
(ホテル?あの地下室とかはこのホテルの地下にあるっていうのか?どういうことだ?)
辺りを見回して見つけた看板には"国営五つ星ホテルゆめシティ"と書いてある。
「国営五つ星ホテル……」
エントランス辺りをジロジロ見ていたナオヤに一人のドアボーイが気づいて近寄ってきた。
「どうされましたか?宿泊予定のお客様ですか?」
「あ、いや、たまたま通りかかっただけで……立派なホテルだなと」
そう話しているとすごく勢いのある突風がナオヤの後ろを吹き抜けた。
その風の強さに少し前によろけてしまったナオヤは、ドアボーイの顔が歪んでいることに気づいた。
「あ、すみません。そろそろ帰ります」
「は、はい。お気をつけて……」
ナオヤは荷物が置きっぱなしだというトラックを探した。
トラックはすぐに見つかり、ナオヤは駆け寄ってみるもコンテナの開け方が分からなかった。
「多分これなんだけどな。どうやって……」
コンテナにベタベタ触っていると、ふっとコンテナの感触が消えた。
違和感を感じたナオヤは手を引き、そっとコンテナに触れてみる。
するとなんとまさか手がコンテナをすり抜けていく。
「えぇ?何これ?」
すかさず手を引っ込めたナオヤは手をまじまじと何度も往復して見るも、何も変わったところは見当たらない。
今度は両手でコンテナに触れると、両手がしっかりとコンテナをすり抜けていく。
ナオヤは開いた口が塞がらなかった。
「嘘だろ……これさっき打たれた薬のせいか?すげえなコレ」
勇気を出してコンテナに向かって歩いていくと、体全体がコンテナをすり抜け、中に入ることが出来た。
真っ暗で何も見えなかったが、制服のズボンに入っていたスマホを取り出しライトをつけた。
一つずつ荷物を取り出し、ナオヤは帰路に着こうとしたが肝心の他の3人がいない。
連絡を取ろうにも恐らくさっきの地下にいるので通知がいくとマズい。
「頑張って運ぶかぁ」
ナオヤは仕方なく各家に届けることにした。
バッグを4つも背負ってヨロヨロと頼りなく歩いて帰っていくのだった。
そしてそのナオヤがコンテナにすり抜けて出入りするところをさっきのドアボーイはしっかりと見ていた。
「こちら6番。被験体04をエントランス付近で確認。恐らく脱走と思われるが人目につくため追えない。至急状況の確認を頼む」
そのドアボーイの目は獲物を狙う獣の如く暗く冷たい光を放っていた。