"普通" 1
ようやく長い1日が終わり、4人は我が家へ帰っていった。
リクの家族は泣いてリクに抱きつき、無事を心から喜んだ。
夜は特に何事もなく、平和に明けていった。
*
すぐに朝がやってくる。
トキマサは佐々木花一の家に居候する事になったため、研究道具やら生活必需品やらをまとめて運び込むということで、しばらくは顔を合わせられないことになった。
また、研究室はこれからかなり重要になってくるものであり、この先もこなすであろう任務には欠かせないものとなるためそれをどこに設置するかで色々と忙しくなるようだ。
通信手段や4人それぞれの力の制御、使い方、応用など……まだまだ残された課題は数多く残っているため、何よりも研究室の確保とトキマサの衣食住は優先度が高いというわけだ。
……ということで、しばらくは4人は普通の高校生活を送ることになった。
朝ギリギリに起きて、ギリギリに朝食を食べ、ギリギリの電車に乗ってギリギリに学校に着く、朝はいつもそうだ。
4人とも皆そんなふうなので、決まって1日で初めて会うタイミングは電車の中からだ。
家が近い4人は最寄りが一緒で、その電車を逃すと遅刻確定となるため、何が何でもその電車さえ逃さなければギリギリ学校に着くことができる。
学校は近いとも遠いとも言えないところにあり、少し息を整えて話す余裕はあるため、少し遠いぐらいだろうか。
4人はその電車の中でいつも他愛ない会話をして少し楽しんだ後、学校まで全速ダッシュを決め込み、シャトルランが終わった後のような息切れをしながら教室に入るまでがセットである。
「おうおう、いっつもよくまあこんなギリギリで来れるもんだよな。逆にすげえわもはや」
「これで1回も遅刻したことないもんな。なんだかんだ毎回間に合ってるし」
褒められてると取っていいかわからない事をクラスメートに口々に言われながらも、4人はそれぞれのクラスでなんとかうまいことやっている。
「なんかさ」
授業合間の休憩時間に4人で集まって人気のない階段のところで心に残る何かを少しだけでもぶちまける。
そんな時間が4人には必要だった。
「薬打たれてから時間たつの遅いというか、全然進まないよね。あんな色んなことがあったのに、薬打たれてまだ3日って何?」
あのコースケがよく喋っている。
そう、実はまだ1週間も経っておらず、薬を打たれたのは3日前のことでその間にリクは連れ去られ、トキマサと出会い、まさかの国が侵略されそうになっている事を知り、同時に人間がゾンビに変貌していく現象が起きていると知らされたのだ。
「確かにな。博士もしばらくは研究室だの住むところだの準備で忙しいらしいし……俺らで何かできることあんのかな」
ナオヤが目玉だけを上にして頭の後ろで手を組んでいる。
「俺はその……実感というか、何が何だかよくわかってないんだよな」
ずっと地下に軟禁されていたリクは口数が少なかった。
だが戻ってきてからというもの、シュウの様子が明らかに変だと感じていたリクは思い切って聞いてみた。
「シュウはさ、何かあったのか?元気ないように見えるけど」
シュウも、自分自身が何か変わって来ていることを薄々感じていた。
警察署に行ってからというもの、証拠資料保管室で本物の凶器や薬物を見てしまったことで犯罪や命ということをより深く考えてしまうようになった。
だがいま思い返せば、夜道で初めてあのゾンビと出くわし拳で殴って倒した時から、もういつものシュウではなかったのかもしれない。
「え……いや、別に……」
街に出た時、逃げようとした人が目の前でゾンビになっていった時は早く何とかしないといけない焦りで深く考えなかったが、すでにシュウは命の重みやその価値感について生まれて初めて考えざるを得なくなっていた。
「確かにまだ力を手に入れて短いけど、色々あったんだよ……」
そして自分と似た力を持つ男との対峙。
完全に敗北したことで自分はこの先何を守れるかの不安に駆られ、助けてくれたおばあさんの孤独感や家族の存在など、高校生1人が考えるにしては深すぎるものばかりを多く味わってしまった。
「まあ、それもそうだよな」
「1週間ぐらい過ごした気分だよね、ほんとに」
「まあ……そっか」
シュウ以外の3人も、何回か頷き長くも短かったこの期間を振り返った。
「あっ……」
シュウは今振り返っていたおばあさんのことで思い出した。
そのおばあさんが孫も能力者だと言っていたことを。
(でも、俺らは薬を打たれてこうなった。あのおばあさんのお孫さんはどうやって力を手に入れたんだ?ってか、知らないだけで他にも能力者って結構いるもんなのか……?)
「どうしたシュウ?」
「……いや、別に何でもないよ」
シュウが考え込んでいる内に休み時間は終わってしまい、4人はそれぞれクラスに戻っていった。




