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初動 3

シュウは10秒ほど走り東京に戻ってくると、他の皆を探してウロウロと歩くが、すぐには見つけられない。


(もう夕方だしな。皆家に帰ったのかな?)


唯一の連絡手段であるイヤホンマイクも、あの男にやられて粉砕されてしまっており、誰とも連絡が取れないと分かるとシュウはそのまま帰宅することにした。


(明日も学校だしまた会えるだろ)



一方、他の皆はホテル下の研究室で集まりトキマサがリクに色々と説明をし終えるところだった。


「リク君の細胞共同化誘導薬は体を構成する細胞の連携を著しく向上させるものだ。そしてその繋がりを強くできるがために脳の命令にも忠実になる」


リクは首を傾げ質問する。


「具体的に何ができるんですか?」


トキマサは片眉を上げ、指をパチリと鳴らす。


「まず、体がとても強靭になる。傷はすぐに治るし、何なら真っ二つに切断されようとバラバラに切り刻まれようと、すぐに元の体に戻ろうとするだろう」


リクはあの警官にやられたときのことを思い出す。


「でも、あの警察にやられたときは普通に動けなくなりましたよ?力も何もないはずの警察に負けましたし……」 

「それは単に薬が馴染んでいないのだろう。特にリク君は4人の中でも馴染むのが遅いはずだ。体そのものを変化させる薬で尚且つそれを操れるようになるとすると、生まれたての赤ん坊がろくに話せず動けないのと同じで慣れるのに時間がかかってしまうのは致し方ないことだ」


リクは顔をしかめた。

そこにトキマサは更に付け足す。


「その薬はただ強靭になるだけじゃないしな。常人ではあり得ない怪力も出せるようになるはずだぞ」


リクは思い出したようにトキマサに尋ねる。


「あと、血を操れるんですけど、これも力の一部なんですか?」


トキマサは手を叩いて何度も頷く。


「なるほど、そうか!体に栄養や物質を運ぶのは血だ。薬をいち早く受け取った血液はその効果がより濃く現れるわけだ!それでリク君の脳と繋がった血液は思いのままに操ることが出来るってわけだ」


これはトキマサも予想外だったらしく嬉しそうにそう語った。


「まあ、さすがに体そのものを伸ばしたり縮めたりとかは出来ないはずだがね」


人気漫画の主人公のような力はないようだったが、力のことや今の状況をなんとなく把握したリクはため息をついた。


「まさかこの国が侵略されようとしてるとは……にしても何でこうなるんだ?何で政府はこの国を守ろうとしない?それに、俺たちが巻き込まれたのは何でだ?分からないことが多すぎる……」


このリクの言葉にコースケとナオヤも頷いている。

事が起きてしまった以上、もう逃れられない宿命だということは薄々皆が理解していた。

トキマサは今回の初任務で手に入れたいくつかの書類を机に並べ、無事帰ってきた道具たちは丁寧に種類別に分けて片付ける。


「さて……問題はここからだ」


トキマサは机に置いた書類をじっと見つめる。

その時、トキマサの腕についているスマートウォッチのようなものが振動し始めた。


「おお、シュウ君が戻ってきたみたいだな。見たところ家に帰ったようだが……」


脳波追跡のアプリを見た後、3人を目玉だけでチラッと見ると顔を上げ、大きなため息をつく。


「どうしたものか……」

「どうかしたんですか?」


ナオヤの尋ねにトキマサは眉間に指を当てた。


「いや……ね。唯一良くしてくれてる政府の役員がいると言っただろう?今も時々何かあったらワシに近況を報告してくれる、佐々木花一(はないち)というヤツがいてな。実はさっき連絡があったんだが……」


トキマサはまたため息をつき、続ける。


「この地下の研究室も取り壊されるみたいなんだ」


3人は顔を見合わせて静かに驚いている。

これはつまり、アジトがなくなるということを意味しているからだ。


「家を壊され、車で路頭に迷っているときに事故でこうなって……次は研究室まで無くなるときたか」


かつての天才科学者が、ただのホームレスのジジイになるのも時間の問題となってしまった。


「でも急に何でなんですか?」

「花一曰く、あまりにこの室内が整理整頓されているからってので出入りしてたのがバレたらしい。後は単に新しく入ってきた科学者の研究室を別のとこに移すからってので、いいタイミングだったっぽいな」


しかも、その新しい研究室はもともとトキマサの家があったところにできた建物に移されるとか。

トキマサは神を憎んだ。


(確かにそういう家系の生まれで参拝とかあんましてこなかったってのはあるが、これはやり過ぎなんじゃねえのか?神様さんよぉ……)


これでトキマサはこれからは常に狙われる的となってしまったのである。


「シュウ君も込みで、全員で話しておきたいことがあるんだがなぁ」


コースケがトキマサの心配をする。


「それより、家とか大丈夫なんですか?これからどうするんですか?!」

「ああ、それなら心配いらない。花一が面倒見てくれると言ってくれた。研究ができなくなるだけで生活ができるんだから、ありがたい話だよ」


トキマサは時刻を確認してから、3人を連れ愛しの研究室に最後の別れを告げた。


地上に出て車に乗り込むと、一行はシュウの家に向かう。

家のすぐ近くのところまで来ると、トキマサは車を止めて3人にシュウを連れてくるように頼んだ。


家のインターホンが鳴り、シュウが気だるそうに出てくると、3人はホッと胸を撫で下ろした。


「元気そうで良かった。結構心配したんだからな」


シュウは急なことで戸惑いを隠しきれず、少しキョドっている。


「な、何で……?どうしたんだよ?」

「あの人が全員で話したいことあるんだってさ」

「それにあの地下の研究室なくなるらしいから、直接来たって感じ?」


シュウは少し離れたところに停まっている、後ろの右ドアの窓ガラスがなくなっている車を見て大体理解した。


4人は車に乗り込むと、トキマサはその辺の適当な公園に向かい車を停める。


「車だと窮屈だし、そこの公園で話そうかと思う」


砂場の公園に寂しく設置されている鉄棒に集まり、トキマサは話を始める。


「まず、皆本当にご苦労だった。ついに全員揃ったことを嬉しく思うよ」


トキマサは背負っていたバッグを前に背負い、チャックを開けて例の書類を取り出す。


「非常に自分勝手な話かも知れないが聞いてほしい。ワシは国の為、そしてこの国の人の為、政府の科学アドバイザーとして働いていたわけだが、国そのものが腐りきっている事を目の当たりにした。そしてこの現状を正したい」


片手に持った書類をバタつかせてそう語る。


「そしてこれは一人では不可能だ。だから君たち4人に協力をして欲しい」


4人は表情を特に変えることもなく、何度か顔を見合わせた後、ナオヤが口を開く。


「え、初めからずっとそのつもりでしたけど……?」


トキマサはポカンと口を開けて固まっている。


「そうですよ。こんなあり得ないこと起きて、見過ごすとか逆に無理ありますよ」


とコースケ。


「こんな選ばれし者的な展開になって黙ってられるわけないだろ!」


とリク。


「まあ、初めて話聞いたときからこれは俺らがやるしかないなって思ってたし……?」


とシュウ。


「俺らはやりますよ。充分やる気もあります。これからどうするんですか、博士」


ナオヤはカバンから垂れ下がっているトキマサの身分証明書を見て、そう言った。


「ありがとう……」


トキマサは天を仰いだ後、書類に再び目をやった。

そして"CZ0016ウイルス検証結果の現状報告"と書かれた一枚の紙をドンと前に突き出した。


「日本の侵略をなんとかする前に、まずはこのゾンビ化現象をなんとかするとしよう」


そう言ってトキマサはニヤリと微笑んだ。

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