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初動 2

しばらくしてシュウは目を覚ました。

あれだけやられたのにも関わらず痛みは引いており、傷は所々残ってはいるがほぼ治っていた。

目覚めたのはどこか分からなかったが静かな部屋の中で、窓の外からはオレンジ色の光が差し込んできている。

まさかと思いつつ壁に掛けられた時計を見れば、時刻は17時を過ぎていた。


「そんなに意識なかったのか……」


シュウは暖かくてフカフカなベッドで上半身だけを起こし、部屋を見回す。

見たところ病院のような施設ではなく、誰かの家のようだった。

ベッドの近くに置かれた小さな台には湯気が立っているお茶と煎餅が置かれており、置いてあったメモには"よかったら食べてね"と書かれていた。


「こんな見ず知らずのガキにここまで……いい人すぎる」


シュウはせっかく用意してくれたお茶と煎餅だったが、甘えて食べるのもいかがなものかと手を付けずに立ち上がり部屋を出た。


「すみませーん……」


少し間が空いてから足音が近づいてくる。

下の階から上がってきたのは小柄でのほほんと優しそうな顔をしたおばあさんだった。


「あら、起きたのね。お菓子は食べたかい?」


シュウは遠慮がちにらしくもなくモジモジしだす。


「いえ……悪いですよ、ここまでしてもらっちゃって……」

「いいんだ、あんたはまだまだ若いんだから」

「本当にありがとうございます、おかげさまで回復しました」

「よかった、よかった」


シュウは一呼吸置いて帰る旨を伝える。


「その……急で申し訳ないんですけど、かなり緊急で急いでまして……そろそろお暇します」


その言葉を聞いたおばあさんは少し優しい顔が崩れた。


「もっとゆっくりしていけばいいのに……」


顔がとても悲しそうになっていった。

どこか違和感を感じたシュウは悲しげに椅子に座るおばあさんを目で追う。

おばあさんはため息をつきながら焦げ茶の棚の上あたりをじっと見つめていた。

シュウもその棚の上を見てみると、複数の写真立てが綺麗に並べられている。


「あの……これって旦那さんですか?」


写真に写るおばあさんの隣には、決まってこれもまた優しそうな顔をしたおじいさんがいることに気づいた。


「ええ……つい最近、亡くなったんだよ。この家で、私の目の前で、気づけばもう旅立っていたよ」


シュウはいらぬ事を聞いてしまったと後悔した。


「嘘みたいだよ。今思えば二十を過ぎたばかりの頃出会って、そこからもう六十年以上共に過ごしたってのに、別れは何の前触れもなくやってきて、そして一瞬で過ぎ去っていく……心の中では分かっていても、いざ現実となると辛いものだよ、本当に」

「……」


変に同情することも相槌も打ちづらいシュウは、黙って話を聞くことしかできなかった。


「娘は上京するって急に出ていって、今となってはもう家族がいて、孫はちょうどあんたと同じぐらいさ。たまに会うことはできるけど、すぐにその時間は終わってしまう。あの人が亡くなってからは、毎日ひとりぼっちだよ」

「確かに……それは寂しいですね」


おばあさんは気持ちを隠すように笑ってみせると、シュウを見送ろうと立ち上がった。


「さあさあ、ごめんね長居させちゃって。帰る時は気をつけるんだよ。あんた、東京から来たんだろう?」


シュウはその言葉に疑問を覚えた。


「確かにそうですけど……何で知ってるんですか?」

「だって、ここらじゃ見ない顔だし、道路で気を失う高校生の子なんて普通あり得ないだろう。常人とは違う特別な力でもない限りはね」


シュウは全身に冷たい電気が走っていくのを感じた。


「えっと、そう…ですね。それでは帰ります。お世話になりました」


おばあさんは頷くだけで、家に戻ろうとしない。


「あの……」


何か知っていそうなおばあさんだが、力を見せびらかすわけにもいかない。


「どうしたんだい、帰るんだろう?目にも留まらぬ速さで走るんじゃないのかい?」

(バレてる?!どういうことだよ?!)


「えっと……その、あなたは何者なんでしょうか……」

「ん?ああ、驚かせたかな。うちの孫も特別な力を持っているもんだから、こういうのは慣れちまってね。大丈夫だよ、言いふらしたりしないさ」


それを聞いたシュウはほっと胸を撫で下ろした。


(お孫さんも、能力者?でもトキマサさんの薬を打たれた訳ではないはず……どういうことだ?)


また一つ疑問が増えたが、とりあえず力の心配は後回しにして、シュウはおばあさんに再び礼をすると、稲妻を纏い東京へと走っていった。


「……あの子、アナタに似てたよ。あの時のアナタそっくりで、てっきりあの頃の姿で化けて出たのかと思っちまったぐらいだ」


家に戻ったおばあさんは、写真に写るおじいさんを見ながらそう呟いた。


「無意識にあの子が帰る時、もっと寂しくなっちまったじゃないか……」


おばあさんの右目から一筋の涙が流れ落ちていく。



自分の身に、いや、全国に危険(ゾンビ)が蔓延してきていることなど何一つ知らずに。

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