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初動 1

その男は足を止め、シュウを窓の外から見下ろす。

シュウは何が何だか分からず、シートベルトに手を掛け向こうの様子を伺っている。

車のドアを挟んで高速の世界でただ2人、緊張した空気の中睨み合っている。


男は窓ガラスに急に殴りかかり、粉砕された破片はその場で浮いて漂っている。

窓ガラスを粉砕したその手はシュウの胸元まで伸びていき、襟を掴むとそのまま窓のところから引き抜こうとする。

シュウはシートベルトを外すよりも抵抗に専念するが、この男の力はかなり強くシートベルトで固定されたままだと引き伸ばされてキツいことに気付くと、すぐにシートベルトを外した。

そしてシュウはあえて割れたガラスが浮いている窓の穴から身を挺して外に放り出された。


「いってぇ……」

「見つけたぞクソガキ」


男はシュウに向かって赤黒い光を放ちながらほくそ笑む。


(マズい、逃げねえと——)


シュウはすかさず立ち上がり車に目をやる。

急に窓ガラスを割られ、また1人いなくなったら心配をかけるし何より迷惑だと、シュウは苛立ちを抑えきれない。


結局、メンツが全員揃うことはないのか。

なぜこうも絶妙なタイミングで邪魔が入るのか。

なぜ突然現れた奴が自分に薬を打った奴で、しかも自分と同じような力を使っているのか。


どれも今考えたところで仕方のないことだが、考えずにはいられなかった。

他の皆には申し訳ないと思いつつも、このスピードのままだと状況を伝えることもできず、かといってスピードを落とすこともまた命取りだと、シュウは渋々この男とやり合うことを決めた。


(——ごめんよ、急にいなくなるけど……すぐ戻るから)


「さぁ走れクソガキ……!壮大な追いかけっこといこうじゃねえか」

「捕まえられるもんならやってみやがれクソが!」

「どっちが速いか確かめようじゃねえか」


シュウはガラス片で何箇所も切り傷がついてしまった体に青と白の稲妻を纏い走り出す。

それを赤と黒の稲妻を纏った男が追う。

まさに鬼ごっこLv999が始まったのだった。


両者ともに音速を軽く超え、衝撃波を街中に撒き散らしながら駆け抜けていく。

たまに互いの稲妻がぶつかり、紫や灰色の火花が散る。

街の人々は街を走っていく謎の稲妻が右往左往しているのを見て足を止める者も多数いる。

中にはスマホで動画を撮りSNSで配信する人も現れた。


「うわっ!何だ?!って……シュウ?!」

「どこ行ったんだ?!」


車の中の皆は一瞬にしてシュウが消えたことに驚きを隠せなかったが、道路のど真ん中で急停車もマズいのでトキマサは我慢してアクセルを踏み続けた。


「ちょっと、あの稲妻って……」


コースケが外を指差すと、全員事を察した。


「そんな……もう刺客が来たのか?」


トキマサがそう零すと、コースケとナオヤが反応する。


「刺客?聞いてないんですけど?!」

「どういうことすか、刺客って?」


トキマサは冷や汗を拭いながらハンドルを握りしめる。


「詳しいことは後だ。今はシュウ君の無事を祈って帰ることしかできない……」


これにコースケとナオヤ、リクも反論した。


「何で……シュウに協力してその刺客とやらを倒せばいいんじゃないんですか?!」

「そうだよ、これじゃシュウに丸投げして逃げてるみたいだ!」


トキマサが静かに舌打ちすると、車内は一気に静まり返った。


「あれはシュウ君とほぼ同格の力を持った刺客だ。君たちが出たところで秒殺されるだけ……むしろ足手まといになってもいいと言うのかね?」


これには誰もぐうの音も出なかった。


「あのスピードには誰も敵わない……シュウ君だけが唯一まともに殺り合える戦力なんだ」


タイヤがアスファルトを転がる音だけが車内にうっすらと聞こえる中、研究室の待つホテルへとトキマサは車を走らせる。


一方、シュウと男は走り続けてついに郊外へと出てきていた。

全く知らない土地を無我夢中で駆け抜けるシュウは、次第にこの鬼ごっこが終わらない事を予感すると、直接拳を交えなければいけないと気付かされた。


(勝てるのか……?てかそもそも攻撃当たるのか?)


そう考え始めた途端、シュウのスピードが落ちる。

シュウは風景の流れが遅くなったのに気付くが、もう遅かった。


(あ、終わ)


男はその隙を見逃さず、すかさずシュウをアッパーで空中に殴り飛ばす。


「あ゙ぁ゙……っ」


頬、鼻、顎、胸、鳩尾、腹、腕、各指、太腿、脛、足……シュウが空中にいる間、これらのありとあらゆる箇所に拳やら蹴りやらの打撃をぶち込み、締めに後ろ回し蹴りをシュウのこめかみに突き刺した。

シュウは瞬きの速さよりも速いこれらの攻撃をモロに食らい、車が行き来する道路に蹴り飛ばされ自動車を数台巻き込んでガードレールに激突した。


「よぉよぉよぉ……唯一俺と対等に殺り合えるヤツがいるって聞いてたんだが……お前じゃなかったってことか?俺のスピードについて来られるやつはお前ぐらいだと思ったんだが、がっかりだぜ」


男は混乱で騒々しくなった道路にゆっくりと出ていき、シュウのもとに歩み寄っていく。


「ハァ……つまらんなぁ。……ん?」


男のもとに無線の通信が掛かってくる。


「おい、どこをほっつき歩いてる?お前が遅れて来るわけないよな?」

「あ……すみません!今行きます……腹の調子が悪くてうっかり……本当に申し訳ございません!」

「あと3分以内に来い」

「はい……すぐ向かいます……」


男はわざとらしく舌打ちすると、その足を止めた。


「運が良かったなクソガキ。次はもっと俺を楽しませてくれよ。まあせいぜいその貧弱な体で頑張るんだな」


そう言って赤と黒の稲妻と共にその場から消えた。


「…………ぁ……あぁ」

(何なん、だ……?次、って……?何がどうなって……)


シュウはガードレールにもたれたまま意識を失った。

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