初任務 6
シュウとナオヤは地下2階の不気味な空間を行き来しリクを探すがここにもいない。
あるのは椅子や長机、トキマサが持っていそうな器具ばかりだった。
ポカンとしながら歩いていると、ナオヤは足に何かがぶつかるのを感じた。
足元を見ると、何か床から飛び出ている。
(ん?さっきからこんなのあったか?)
ちょうど指が入るぐらいの隙間があるフックのようなものが床から飛び出ていた。
ナオヤは不審に思いつつもそれを思い切り引っ張ると、床の一部分が分離してそこにちょうど入れるぐらいの穴ができた。
「うわっ!なんだこれ隠し穴か?!」
「おー、そういうことか」
シュウとナオヤはその穴からさらに下へと降りていく。
「にしてもすごい造りだな。まさか警察署の下にこんなのがあるとか誰も知らないだろうな」
「防犯カメラがあるのは地下1階までらしいし、あのトキマサって人の話聞いてたからわかると思うけど、政府が絡んでるからやっぱり裏があるんだろうな。リクなんかモロに警察にやられたわけだし」
「所詮見せかけだけってことか……」
地下3階に降りると、意外とそこは明るい空間が広がっていた。
1つずつドアを開けて回りながら見ていくと、金属でできた重いドアの部屋にリクがベッドで横になっていた。
「「リク!!!」」
その声でリクはゆっくり目を覚ました。
「ん…………あ、えぇ?!シュウとナオヤ?!なんでここに……どうやって?」
硬く冷たい金属の台の上で四肢を固定されながらリクはシュウとナオヤの方に首を曲げる。
「やっと見つけたぁ……今助けっから」
リクは嬉しさと同時に絶望を感じていた。
研究員らしき人たちが部屋に入っては出ていくを繰り返しており、誰もいなくなったときにリクはその力を使って脱出を試みたが、この台も固定器具もびくともしなかったのだ。
「いや……来てくれただけでも俺は嬉しいよ」
シュウとナオヤは首を傾げた。
全くもってリクの言っている意味が分からなかった。
「何言ってんだ?今助けるって言ってんだろ」
「無理なんだよ……この台は相当強固に作られてる。ねじ曲げて出ようとしても全て無意味だったんだから……」
ナオヤはリクがまだトキマサに会ったこともなく、力についての詳しい説明も聞いていないから知らないだけなんだということに気づくと、一旦リクをスルーすることに決めた。
ナオヤは適当にリクの左腕に触れる。
リクは全身の力を抜き、ピクリとも動く気配はなかった。
なぜ急にナオヤが腕に触れてくるのか……リクはなんとなく違和感を感じた。
「いや、どうしたナオヤ?オレに触ったって何も起きないぞ?」
(もしかしてナオヤ……嘘だろ?!)
ナオヤは何も考えていなかった。
無意識にリクの左腕の手首の方から肩にかけて撫でるように擦っていることに気づかない。
家に帰れておらず袖や裾が破けてボロボロの制服を着たリクの体は、少し肌がチラついている。
シャワーももちろん浴びれていないリクの体は、頭の先から足の先までリクの匂いがする。
リクは何を考えているのか、かなり大きな勘違いをしているようだった。
「何じっと寝てんだよ。早く起きろよ」
「え、でも……えっ」
謎の緊張でもっと身体が動かなくなっていくリク。
少しイラついてきたナオヤは無理やり上半身だけでも起こそうと、腕を触るのをやめ台の上に登るとリクの体に跨るようにして座った。
「えっ、えっ、えっ……」
「帰りたくねえのかッ……こんのぉ……」
ボロボロの制服の襟を掴み、力を込めて引き上げようとするが意外に人間の頭は重く、リクがなかなか持ち上がらない。
むしろナオヤが重さに負け、反動でリクの方に倒れ込んでしまった。
四肢を拘束され、顔を赤くしているリクの上に少し疲れて息が上がっているナオヤが跨り、互いの息がかかるぐらいには顔が近かった。
「ナオヤ、お前……」
そこに壁に寄りかかって一部始終を見ていたシュウが眉を上げて切り込む。
「俺はさっきから何を見せられてんの?」
ナオヤは台を飛び降り、頭をむしった。
「あーもう!俺は触ったものもすり抜けさせることができるんだよ!リクに触ってる間はリクもすり抜けられるんだから普通に起きればいいんだよ!何顔赤くしてんだ!」
リクは我に返った。
「最初からそう言ってくれよ……知らねえよそんなことできるとかさ……」
「ウッ…………」
ナオヤの完全敗北だった。
こうしてリクは台の束縛から解放され、3人で地上に向けて歩いていく。
地下1階の階段付近まで来ると、コースケの声が頭に聞こえてくる。
『ちょっと、まだ?そろそろきついんだけど』
ナオヤが頭に思考を思い浮かべる。
『ごめんごめん。今リク助けて上に上がるところ』
『わかった。じゃあ先に車に戻ってるから、外に出る時はシュウに移動してもらってね。一応防犯カメラに映っちゃうとアレだから』
「だそうです」
ナオヤがシュウに確認を取ると、シュウは先にリクを担いで外の車のところに運んだ。
すぐさま戻ると、ナオヤを担いで車に戻った。
「おおー君がリク君か。大変だったなぁ、まぁ細かいことは後でな。今はとにかくズラかるぞ」
トキマサはアクセルを踏み、警察署を後にした。
署内の警察たちは意識を取り戻し、周囲を見渡す。
時計を見てからここ数分の意識がないということに気づき、沈黙が訪れる。
「何があった……?」
「さあ……でも何で?もう20分過ぎてるんだけど……?」
「その20分何をしてたか覚えてない……」
「ハァー……」
一方車内ではトキマサは安堵のため息をついていた。
「とりあえず初任務は大成功だな。ハッハッハ」
皆でリクの無事を喜んでいた。
リクは涙目になりながら安堵の感謝を全員に伝えた。
リクがコースケやナオヤ、トキマサと話をしている時にふとシュウは違和感を感じた。
えも言われぬ恐怖……焦り……その違和感は勘違いでも何でもなく、確信に変わっていく。
それには5秒もかからなかった。
フロントガラスの奥に続く道路が、黒みを帯びた赤い光に包まれ、やがてそれは辺りを埋め尽くす深紅の空間となり、赤と黒の稲妻が走っていくのが見えた。
(何だ……?何が起きて……)
それは想像すらしなかったまさかの既視感だった。
車の前方から1人、赤と黒の稲妻に包まれた男が現れ、道路を走っていく。
車内のトキマサ、リク、コースケ、ナオヤは動いていない。
他の車も、歩行者や自転車に乗っている人、上空を飛び回る鳩ですら止まっているのに、その赤と黒の稲妻を纏う男は動いている。
そしてシュウも。
(嘘だ…………)
——シュウがその凄まじい速さで動く時、世界は止まっているも同然に感じられる。
——だがしかし、シュウの他に止まった世界で動ける人間がいるとしたら?
やがてその男は自分たちが乗っている車の横を通り過ぎていく。
シュウは目立たぬよう目玉だけでその男の動きを追う。
そしてその男と目が合ってしまった。
(ヤバい動くな俺!!!)
なんとか動きを瞬時に止め、難を逃れようとしたがすぐにそれは無意味だと思い知った。
なんとシュウはその男を知っており、その男もまたシュウの事を知っていたのだ。
何を隠そう、その赤と黒の稲妻を纏って今目の前を走っている男が、シュウに薬を打った張本人だった。




