初任務 4
「よし。早速だが、今目の前に長い通路があるだろう」
トキマサは防犯カメラを見ながら署の3D解析データの算出を急いでいる。
ナオヤは一旦透明化を解除し、自分本体を確認して安堵のため息をついた。
「はい。こっち見えてるんすか?」
「ああ。今署の防犯カメラの映像は人工衛星を経由して見ることができる。直接干渉する権限はないがな」
「はあ……それで、どうしろと?」
トキマサは中々データの結果が出てこず、マウスを握る手を緩め無差別に指をバタつかせる。
「それがな……今ナオヤ君がいるのは地下一階だ。リク君がいるのはその下の地下二階かそれよりも下の階……地下一階より下の階には防犯カメラが無くてだな……」
ナオヤは眉間にシワを寄せた。
「つまりは指示が出せないってことすか……?」
「まあ待て。赤外線やら超音波やらで構造を把握中だ。もう少し待てば指示が出せる」
「ってもここ一応警察署っすよ……?警察がどこにいてもおかしくないんすよ?」
そこにどこからか手を叩く音が聞こえてくる。
その音はただ手を叩く音というよりかは、拍手の音だった。
「御名答。ここは警察署だぞ?こんなところで一般人が何の用かな?いや、一般人じゃないなぁ……」
「え、えと……その……」
ナオヤは完全に気を抜いていた。
言った側からさっきの発言のフラグを回収しただけで、かなりヤバめな状況に陥ってしまった。
「被検体04……だろ?」
嬉しそうに話すがどこか人間味を感じられないその狂気的な表情に、ナオヤの背筋は凍りついた。
「え、え、え……」
「ッカハァ!お友達が自らここまで出向いてくれるとは、いいヤツを友達に持ったもんだなぁ被検体02は」
その言葉を聞き、ナオヤは恐怖を感じながらもリクの顔を思い出す。
「その被検体02はどこにいる?!」
警察は首をひねりながら手を当て、その歯が薄暗い照明を反射する。
「さあねぇ。お宝は自分で探して見つける方が楽しいだろう?」
(クソ野郎が……)
ナオヤは小さな声でトキマサに指示を仰ぐ。
「あの、今ちょっと良くない状況なんすけど……」
トキマサはちょうどカメラを見ていなかった。
データの解析に夢中になってしまっており、イヤホンマイクがナオヤからの一方通行になっていることに気づいていない。
トキマサの返事が届くこともなく、ナオヤは急に通信を切られてしまったのだ。
(あのポンコツジジイ!!!)
「ちょうどいい、これで2人目だ」
ナオヤの額を一筋の汗が滑り落ちていく。
いくらすり抜けると言っても、実際に頭の切れる敵と戦うのは初めてだ。
震える足を震える手で押さえ、呼吸が浅くなっていくのが分かる。
だからといって自分で抑え込めるような感情ではなかった。
「気になってたんだ、物が体をすり抜けるってのはどういう感じなのか——」
何の躊躇もなく腰から拳銃を引き抜くと、ナオヤに向けて狙いを定める。
ナオヤは銃口を向けられる恐ろしさに歯も震えだし、その空間にはカチカチと小さな音が鳴る。
「——なぁ」
警察は引き金に掛けた人さし指を曲げる。
鼓膜を激しく揺さぶり、脳にまで直接響いてくるようなその発砲の爆音が地下一階全体に行き渡る。
「へぇ……面白いなぁ」
すり抜ける時は別に体が透けているわけではない。
打った弾丸が当たったかと思えば一瞬で消えたように見えるのだ。
ナオヤには傷1つ付いておらず、恐る恐る後ろの壁を振り返ったナオヤは自分の額の位置の壁に弾丸がめり込んでいるのを見て、血の気が引いた。
「マジノーダメじゃねえか。ずりいな」
「……それ、あいつにも打ったのか?」
警察は首を傾げ、少し間を開けてから鼻で笑う。
「プッ、あぁ被検体02のことか?あぁ、何発も体中にぶち込んでやったよ。安心しな、殺すなと命令されているし、どれだけ打ったところで被検体02はそう簡単に死なない」
ナオヤは静かに歯を食いしばった。
深呼吸をし、全身の緊張をゆっくり解いていく。
肩の力が抜けきると、なんだか体全体がほのかに暖かく感じられた。
再びナオヤは頭で透明化のイメージを強く浮かべる。
すると、全身が少しピリピリと軽い静電気に包まれたような感覚を覚えた。
自分の手や足を見て、ちゃんと見えなくなっていることが確認できると、とにかくリクの救出を最優先にすると決め、足音を立てないように静かに歩いていく。
「おぉ、透明にもなれるのかぁ。俺の出る幕なし、か」
警察は腰に銃を戻し、呑気に螺旋階段を上っていった。
(今行くから待ってろよ、リク)
ナオヤは薄暗く照らされている細い通路をゆっくりと、用心深く歩いていく。




